彼女の秘密


                                 初めての……


 最初に彼女の姿を見かけた時、図書館のカウンターの中で彼女は、手に取った本を見つめながら、優しげな微笑を浮かべていた。
 
 両親が不在となった日の午後、僕の部屋で不意に二人の会話が途切れる。
 何か言おうと思うのだが、彼女の顔を見ていると何もいえない……それは、たぶん彼女も同じなのだろう。
 自分の顔を見つめる僕の顔を見つめ返す彼女の顔が、ほんのりと赤く染まって行くのがわかる。
 僕は彼女の身体に手をかけ、僕の方へとゆっくり引き寄せる。身体に手が触れた一瞬だけ、彼女の身体はビクリッ! と震える様に動くが、それだけで僕の方へと為されるままに引き寄せられてきて、抵抗をする素振りすら見せなかった。
 僕の唇が彼女の唇に触れる……三度目の口付け、最初の時は無我夢中だった事もあり、彼女の唇の柔らかさしか記憶に無い、二度目の時は、辛うじて彼女に舌の温かさを記憶する事ができた。
 そして三度目の口付け……唇の柔らかさを感じ、舌の温かさを感じ、彼女の熱い吐息を感じる事が出来た。
「いい?」
 重ね合わせていた唇を、ゆっくりと……名残を惜しみながら離した後に、僕は胸の鼓動が彼女に聞えるのではないかと思える中で、震える様な声で聞く……彼女は、ほんのりと染め上げた顔を更に赤く染め、コクリと小さく頷いてくれた。

 彼女の着ている服を震える指先で脱がして行く、彼女も積極的ではないが、出来るだけ体を浮かしたり、服や下着を脱がしやすい位置へ身体をずらし、僕の行動をサポートしてくれる。
 この時に僕は不意に気がつく……彼女の、その行動が妙に慣れている様に思えたからだ。
 だが、それも一瞬だけ……脱がした下から現れた彼女の白い肌、そして柔らかそうな二つの乳房と、その先端に乗っかっている……まだ少し窪んだままとなっている乳首を見た時、そんな疑問は一挙に吹き飛んだ。
「好きだよ……愛しているよ……」
 紋切り型の台詞を僕は口に出しながら、その柔らかそうな乳房に手を伸ばし、覆い隠すようにしながらゆっくりと揉む。
「あっ!」
 彼女の小さな喘ぎ声、その声に誘われながら僕は、彼女の下半身の方へと手を伸ばし、小さなショーツの端に手を掛ける。
 少しだけ腰を浮かし、脱がし易いようにしてくれる彼女……僕は続けて言う。
「ありがとう……君の初めてを僕にくれて……」
 そう言った僕の言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が急変した。ホンの直前まで、まるで夢でも見ているような表情をしていた彼女、だが今は強張ったような……泣き出してしまいそうな、そんな表情に変わってしまっていた。
「どうしたの……急に怖い顔になって、僕が何か変な事でも言った? それとも……やっぱり嫌なのかい?」
「ちがう……違うんです」
 既に表情は泣き顔へと変わっていた……そして泣きながら彼女は、衝撃的な事を口に出した。
「わたし……あなたが初めての人ではないんです……ごめんなさい、だます気なんか無かったのに……ごめんなさい……」
 そして彼女は、泣きながら自分の身におきた過去の出来事を話し始めた。


                              告白と幻滅


 彼女の話は、こんな話だった……今から二年ほど前、まだ僕と出会う前だった中学生の頃の出来事、図書の整理(中学時代も彼女は本が好きで、図書委員をしていたらしい)で夕方と言うよりは、既に夜となった学校からの帰り道、近道をしようとして通った公園の中で、彼女は後をつけて来た同級生の男子に乱暴されたと言う。
 しかも、その男子生徒はこの出来事を脅迫の材料にして、その後に何度も彼女を呼び出しては、その度に犯し続けたという事であった。
 絶望の日が続く中、何度もこの事を両親や親しい人に打ち明けようとしたが、恥ずかしさのあまり言い出す事が出来ない……自殺すら考え始めた時、その男子生徒の家が火事になり、脅迫の材料とされていた彼女の犯された時の写真や、その後に撮られた恥ずかしい写真が、脅迫した男子生徒ともども消え去る事となった……
 そして彼女は、誰にも言えない秘密を自分だけのものとして、心の奥底にしまい込んでいたのだ……僕が……
『ありがとう……彼女、初めてを僕にくれて……』
 と言うまでは……
 泣きじゃくる彼女……いや雌豚女の姿を俺は、汚物でも見るような視線で見続ける。
 あまりに都合の良い、自分勝手な告白……今までに、この事を言う機会は幾らでもあった筈なのに、最後のこの瞬間まで隠し続けたという腹立たしさ、既にこの女に対する愛情は欠片もなくなっていた。
 魅力的に見えていた白い肌は、すでに他人の精液をたっぽりと浸み込ませ、ぶよぶよと蠢く汚物を詰め込んだ肉袋にしか見えなくなり、先程まで感じていた神聖で触れがたい物では泣く、俺の欲望を満たすだけの代物へと変わり果てていた。
「どんな風に、その男の抱かれて、どんな声を出しながらよがっていたんだ?」
 めそめそと泣きじゃくり続ける女に向って、俺は蔑みを込めた口調で残酷な言葉を叩きつける。
「えっ、そんな……」
 果たしてこの女が、俺がどのような反応を示すのか……優しく慰めてでももらえると言う、何か都合の良い、身勝手な事でも期待でもしていたのだろうか? 驚いたような声を出し、横たわっていたベッドの上で起き上がろうとする。
「うるせぇ!」
 起き上がろうとした女の顔を叩く、その拍子にかけていた眼鏡が吹き飛んで、板張りの床に落ちる……カシャン! と言う乾いた音を立てて砕ける眼鏡、それを無視し俺は女の身体をベッドの上に押し倒す。
「どうせ初めてじゃないんだ、こうなったら俺が満足するまで……いや飽きるまで、たっぷりと楽しませてもらうぜ!」
「ひどい……酷いです!」
 涙で歪んだ表情、それを俺の方へと向けながら、逃げ出そうとする女……だが俺は、当然のように逃がす事などしない、髪を掴みあげ引き倒し、半分脱げかけたままとなった下着を強引に剥ぎ取る。
「ひぃ!」
「こっちの方も、どうせ初めてじゃないんだろ……じっくりと犯させてもらうぜ!」
 全裸のまま倒れている女、その両足を強引に押し広げ、その全てを曝け出させる。
「いやぁ、いやぁぁ――!」
 泣き喚き抵抗を繰り返す女、俺はそれに対して圧倒的な暴力で応える……膣を犯し、尻の穴を犯し(さすがに口を犯すのは危険を感じやめたが)何度も女の肉体に欲望を吐き出し続ける。
 最初こそ抵抗していた女であったが、やがて大人しくなり喘ぎ声すら漏れださせ始める。
「へっ、やっぱり何度もしている女だ……こんな風にされて興奮してやがる」
 女を犯すという行為、そして乱暴な自分の行為に酔いしれながら、俺は何度も女を犯し続けた……


                           エピローグ


 その後、何度も女を犯し続けた末に俺は、犯し疲れの末に居眠りをし始める……そして、どれくらい居眠りをしたであろうか? キナ臭い臭いとパチパチと何かが爆ぜる様な音、そして熱気を感じ俺は目を醒ます。
「おい、こりゃ!」
 眼を開けた先には燃え盛る室内が映し出される……そして全裸のまま、手にライターを持って立っている彼女の姿が映し出される。
「ふふふ……燃えちゃえ、みんな燃えちゃえ……あの時と同じように、悪い思い出はみんな燃えちゃえ……」
 壊れた眼鏡をかけ、その顔に薄笑いを浮かべながら、何事かぶつぶつと喋り続ける彼女の姿……俺は、その時になってようやく悟る。
 かって彼女を犯した男の最後、家が火事になって男を含めて全てが燃えたという事実……その様な都合の良い偶然である筈が無い、すべてはこの女が……彼女が、自分の手によって引起した事だったのだと!
 慌てて逃げ出そうとした俺の脚は、厳重に縛り上げられ、その先端はベッドに縛り付けられていた。
「たすけて! 御願いだ! たすけてくれぇぇ――!」
 叫ぶ俺の姿を、薄笑いを浮かべながら見た彼女は、不意に哀しげな表情を顔の宿し……次の瞬間に、初めて見た時のような優しい笑顔を俺に見せて言う。
「さようなら……」
 パタンと閉じられる部屋のドア……そして燃え盛る部屋の中に、俺だけが残された。


                                                       終



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