『 闇は語らず… 』 


 2時間くらいたってから、再び美緒ねえちゃんの家を訪ねる。
 相変わらずの反応…帰って来た様子も見えない…どうしたのだろうか?

 不安になり、もしかして…と言う思い、二階の美緒ねえちゃんの部屋に行ってみる。

 トントントン…と、階段を上がり、二階の美緒ねえちゃんの部屋の前までくる。
 コンコン!と軽くノック…
「美緒ねえちゃん、帰ってきている?」
 返事を待つが返答は何も無い…再度同じ事を繰り返すが、やはり返事は無い
「う〜ん…やはり居ないのかな?」
 ドアがキィ〜…と自然に開く、完全にドアが閉まっていなかったみたいだ、開かれたドアから中を覗き見る…ちょっとした好奇心…部屋の主人がいない時に、その人の部屋にはいると言うのは、いけない事だと知っていたが、ほんの少し前の、この部屋で美緒ねえちゃんとセックスをする寸前までいった…と言う、記憶が開いたドアから、身体を滑り込ませてしまった。
「美緒ねえちゃん…やっぱり、いないみたいだな…」
 ぐるりと室内を見渡す…あの時は、興奮していて気がつかなかったが、やはり女の子の部屋だという事を感じさせる小物が色々と置いてある。
 ぐるりと視線を室内に改めて漂わせる…漂わせた視線の先に何かがうつる、目に止まったのは机の上に置かれているメモ紙…なにか気になる、机に置かれたままのメモ紙…その紙には(駅裏、廃病院)と、走り書きされていた。
何かが…心の奥底で、何かが警告を発する…それが、なんの警告なのかは理解できないが、再度メモ紙を見る。
走り書きされた(駅裏、廃病院)の文字…言い知れぬ不安が、胸の奥底から湧き上がってくる・・
「美緒ねえちゃん!」
 次の瞬間に、俺は階段を駆け下りて、玄関から飛び出すと、素早く自宅に戻り、庭先に置かれている自転車に跨ると走りだした!
 目指すは、駅裏の廃病院!
 すでに夜の闇が街に染み込み、全てを暗く覆い隠し始めていた…


                           【 見なかったんだ! 】


 駅裏の廃病院についたのは、すでに夜であった。
 俺は、塀の割れ目から敷地内に入り込む、雑草がぼうぼうに茂る庭を突ききり俺は、ガラスの壊れている病院の正面玄関に立ち、内部を伺う…耳を澄まして何か物音がしないかと聞耳を立てるが、何も聞こえない…
 俺は、気をつけながら病院の内部に入る、外は月が出ている事もあり、ある程度は明るいが内部は、真っ暗である。
 俺は、とりあえず正面に見える階段まで行き、その階段を上に向かって上る…1階から2階へ…月明かりのおかげで真の闇ではない、よく見ればぼんやりと周囲の様子も見て取れる、そして2階から3階へ…3階から4階へと、いく途中の踊り場で俺は、あるもの見つけた…それは、うちの学校の女生徒の制服がスカート共に一揃い、放置されていたのだ。
「この制服…」
 その制服の胸の部分には、暗くて確認は出来ないが、何か持ち主のイニシャルが縫い付けられているようだ…イニシャルの文字は『M・S』…美緒ねえちゃんと同じイニシャルだった。
 俺は、さらに階段を上り5階のかっては病室として使われていたであろう部屋が立ち並ぶ廊下に出た、そしてその中の一室から、すすり泣きの様な、かすかな声が聞こえて来るのを確認した。
 俺はその部屋を注意しながら…中に居るであろう人間に悟られないように覗き込む…そこで俺は見た…見たくないシーンを見てしまった…

 ある程度は覚悟していた…覚悟はしていたが、実際に見たシーンは衝撃的であった。
 月明かりが射し込む中、壊れたベッドの上に美緒ねえちゃんがいた…明らかに暴行を受けた無残な姿の、美緒ねえちゃんが横たわっていた…

 俺は、気づかれないように、その場から立ち去る…
 どう声をかけて良いかわからなかったし怖かった…それに美緒ねえちゃんが、男達にレイプされたと言う事実を俺に知られたとしたらどう思うだろう?
 多分もの凄いショックを受けるだろう。
 すでに手遅れと言うのならば、この事はだれも知らなかった事として…俺も知らなかった事として、俺の胸の奥底に仕舞いこむのが一番良いだろう。
 俺は、廃病院の出て行く…背後の闇の中…廃病院の奥から悲痛な啜り泣きが、何時までも途切れる事無く、漏れ出しているように思えた。


 突然に荒れだした美緒ねえちゃんの生活、学園の不良グループたちとも付き合いだし、何度も警察に補導され…援助交際もしていたらしい…
 美緒ねえちゃんの一家が、別の街に転居したのは、あの時から数ヵ月後の事だった…
 どうして、そんなことをするようになったのか…理由は俺だけが知っていた…
 俺は考える、もしもあの時に逃げ出さずに、美緒姉ちゃんを抱きとめてあげたなら、こんな事にはならなかったのではないかと、だがそれはすでに手遅れな事だ、今の俺にできる事は一つだけしかなかった・・・・・・

 俺の足元に一人の男が、首から血を流して転がっている…あの時に、美緒ねえちゃんを犯した男達の最後の一人だ… 俺も、腹に突き立ったナイフから血があふれ出している…
 この2年間と言う歳月、俺は美緒ねえちゃんを犯した奴らを見つけ出し、全員にその罪を償わせた。
 それが、俺に出来るただ一つの事だから…
「美緒ねえちゃん…ごめん…」
 薄れいく意識…遠くで美緒ねえちゃんが呼んでくれているような気がした…





                         バッドエンド



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