ロックマンエグゼStream


                              【 メディ丸呑み 】




 チョイナの伝説的な薬剤師であるカルダモン、その孫娘であるジャスミンが、飲めばたちどころにどんな病気をも治してしまうという「幻の秘薬」の原材料である薬草「ミズイロタンポポ」を探してニホンへやって来たのは数日前の事だった。
 ニホンに到着早々に財布を落とすと言うハプニングに襲われたジャスミンであったが、偶然に出会った光 熱斗とともに「ミズイロタンポポ」を求めて様々な場所を探し歩きまる。だが「ミズイロタンポポ」は、一向に見つからなかった。
 落ち込むジャスミンに、ナビであるメディが元気づける様に語りかける。
「あきらめないでジャスミン! きっとどこかにあるはずよ、がんばりましょう!」
「それに私たちには大きな夢があるじゃない!」
 ジャスミンの夢、それは過去に大切な友達を病気で失い、深く悲しみに浸っていたジャスミンに、友人の親から譲り渡された友人のナビであったメディ……そのメディに、ジャスミンは誓ったのだ。
「ジィちゃんみたいな世界一の薬剤師になって世界中から病気をなくすんだ」
と、そして誰にも悲しい思いはさせないんだと!
 それがジャスミンとメディが想い描いた大きな夢、その大きな夢へ向かってジャスミンとメディの二人は、カルダモンの下で日々修行し続けた。
「そうだね、落ち込んでなんかいられないね」
 メディに励まされたジャスミンは、再び元気を取り戻し「ミズイロタンポポ」を探し出そうとしたのだが、そんなジャスミン達一行を密かに尾行し、隙を伺う一団が居る事など、当然の様にジャスミン達は知る由も無かった。

 伝説的な薬剤師であるカルダモンの元から、ようやくに入手した少量の「幻の秘薬」を何とか量産し、莫大な富を得ようと画策していた某製薬会社の社長であるベンゲルが、カルダモンの弟子であり孫娘であるジャスミンが、ニホンに来ている事を知ったのは偶然の事であったが、そのジャスミンなら「幻の秘薬」について、その製法を知っている筈だと想い込んだのは、進まぬ「幻の秘薬」の分析結果に痺れを切らしていた事が原因だったのであろう。
 早速に部下(主に非合法な活動を専門とする産業スパイ達……言うならばヘンゲルは、そんな部下を常に用意して置くほどの、ある意味一線を越えた会社の社長と言えた)へとヘンゲルは命令をする。
……ジャスミンが所持している荷物を奪い「幻の秘薬」のレシピがないかを探れと、そして可能ならジャスミン自身も誘拐して来いと……
 ヘンゲルの部下達は、有能であった。見事にジャスミンが持っていた荷物とジャスミン(こちらは偶然だったが)をヘンゲルの元へと連れて来たのは、命令を下した数時間後のことであった。

 ヘンゲルの脅迫じみた問いかけに対して、最初の内は「幻の秘薬」について何も知らないと言っていたジャスミンであったが、ナビであるメディを人質に取られた状態となって、ヘンゲルがジャスミンの荷物の中から探し出した巻物に書かれていた暗号を解読しろと脅迫され時、渋々ながら巻物に書かれている暗号の解読と、その書かれている内容通りの代物を作る事を承諾させられ、別室へと連れて行かれる事と。人質であるメディは、ヘンゲルの所有するネットワークの内部に閉じ込められたまま……
 だがヘンゲルは考える……もしかして、人質にしたナビの中にも「幻の秘薬」に関係する情報が、何か隠されているのではないかと?
 そしてヘンゲルは部下に命令をする……あの小娘が、巻物を解読し終えるまでに、このナビの情報の全てを解読して置けと……そしてメディが閉じ込められているネットワークの中に、ウィルスが……バグと呼ばれるモノが放たれる……メディの全てを赤裸々に暴くために……



 閉鎖空間と化したネットワーク、外部の様子がまるでわからない状況の中で、メディは自分の事よりも別室へと連れ去られたジャスミンの事を心配していた。
「ジャスミン……」
 なんど彼女の名を呟く様に呼んだだろうか?
 無論の事、その呟きに応える者はいない……いや、いない筈であった。
 座り込んでいたジャスミンが顔を上げた先に、それが何時の間にか存在していた。
「なに……なんなの……」
 メディの感覚が捕らえたモノを、人の視覚で表現するのならば、巨大な蛇に似たモノであり、実際に蛇に似たモノとしか表現の仕様の無いモノでもあった。
 それはメディは知らないが、ヘンゲルがメディの中にあるデーターを強制的に解析する為に放ったウィルスの一種で「バグ」と呼ばれるモノであった。
 その蛇に似たバグが、ズルズルとその長い身体を引きずりながら、メディの方へと近寄ってきた。
「なんなのよ!」
 その不気味な姿に、何処かに逃げ出す場所が無いかと周囲を見回すメディであったが、当然の様にそんな場所がある筈も無い
「くるな……こっちにくるなぁ!」
 手持ちのカプセルボムを、ズルズルと這い寄って来るバグに投擲するが、その攻撃を無視するかのようにバグは、メディの足元まで意外なほどの早さで這いずり近寄り、逃げ出そうとするメディの身体を絡め取り、素早く締め上げて行く……
「いひぃ!」
 身体に纏わりつく異物の感触、そして締上げられる身体の拘束感、システムをどうにかされ壊されると言う様な破壊的な締め付けではないが、何か特殊なパルスでも放出されているのだろうか、締め上げられた身体は、思う様に動かす事は出来なくなっている。
「あうぅ……ううぅぅ……」
 既に身体の自由を喪い、苦悶に顔を歪めたメディに、バグの先端が突きつけられ、その先端の部分が大きく開かれる。
「あっ……あぁぁ……!」
 八方に大きく裂け広がったバグの開口部……それは、メディに巨大な口腔を思い起こさせ、実際にそれは大きく裂け広がったまま、メディの頭部へと迫ってくる。
「いやぁぁ……」
 ぬらりとしたバグの口腔、迫ってくるそれから思わずメディは顔を背け横に顔を振る。
「くぅぅ……助けて、だれか……ジャスミン助けて、いやぁぁ……」
 身体を締上げられ続けるメディは、既に大声出す気力すらなくなっている。
 ポタポタとバグの口腔からたれてくる粘液を思わせる何かが、メデイの顔に滴り落ちて染み込み、更にメディの自由を奪って行く、その染み込む何かを少しでも避けようとするメディは、唇を噛締め歯を食いしばって必死に、染み込もうとしてくる粘液にメデイは耐える……だが……
「ひぃ!」 
 頭部がネチョリとした感触に覆われる……頭部から直接に染み込んでくる粘液の感触……
「いやっ!」
 巨大なバグの口腔がメディの頭を包み込む、ズルズルと頭部を包み込みながら、下の方へ降りて来る。
「はぁ、はぁぁひぃぃ……いやぁ、いやぁぁ――!」
 頭部のナースキャップを思わせる部分が飲み込まれ、バイザーのある場所まで、そしてメディの視界はバグに包み込まれ、暗黒へと堕ちていく……
「んっ、んぶぅ! ふぅぅ……んばぁ……」
 鼻が覆われ、口すら塞がれるが、不思議と息苦しさは無い……ただバグに呑み込まれていく不気味な、絶望感にも似た感覚だけが、暗黒の中で頭部を包み込んでいく……やがてメディの頭は、すっぽりとバグに覆い尽くされた。

 頭部をすっぽりと覆われ、視界は闇の中に消え、音すら聞えない……いや正確には、私を呑み込んで行く蠕動運動の音が、耳の奥に粘り付くように聞え続けている。
「ぶぅぐぅぅ……んぶぁ……」
 息苦しさは相変わらず無い……いまだに締め付けられ、戒め続けられている身体、閉じ合わせた瞼の裏……食い縛った口の中……首筋に……乳房に……腹部に……そして股間に……身体の内部にすら染み込むようなバグの粘液の感触……メディにとって未知の感覚……それが延々と続いた……
「……? ……?!」
 飲み込まれて行く自分のボディ、そのボディに対する違和感……その違和感でメディは気がつく、自分が少しずつ解析されて行く事に!
 自分が解析されて行くと言う感じを、どの様に表現すれば良いのか……今までに経験した事の無い感覚、それをどの様に捉えれば良いのか……言うならば、それは身体を溶かされて行くような不気味な、恐怖に満ちた感覚、身に着けている衣服を一枚ずつ剥ぎ取られ、裸にされて行く様な羞恥の感覚……そんな恐ろしくもおぞましい感覚が、メディの中に芽生え始めていた。



                     つづく


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