メトロポリタンミュージアム〜幻想


                                    

 ふと『メトロポリタンミュージアム』と言う歌を思い出す。
 『メトロポリタンミュージアム』……それは私の大好きな曲で、真夜中のメトロポリタン美術館に迷い込んだ女の子が体験する。不思議で楽しい真夜中のメトロポリタン美術館での出来事を歌った曲だったりするのだけど、最後の方で、その迷い込んだ女の子が、大きな絵の中に閉じ込められてしまう……と言う感じで曲が終わるのが、少々怖かったりする。
 どうしてそんな曲の事を突然に思い出したかと言うと、実際に某美術館(流石にメトロポリタン美術館と言う訳ではないが、それなりに有名な展示品があり、近隣でも有名な美術館だったりする)に、真夜中に一人で居たりするからだったりする。
 ほんで真夜中に美術館などに一人でいるかといえば、答えは単純で、その美術館の夜警のアルバイトをしているからだ。
 ここ数年来の持病である金欠病、それが不況と名の下に急激に悪化し始めている昨今、そんな時に偶然に見かけた『夜間警備員大募集(女性に限る!)』の貼紙!
 そこに書かれている時給の良さに、貼られた直後らしい貼紙を、素早く誰か他の人が見つけないようにと掲示板から引き剥がし(本当は駄目なんだけど)、その引き剥がした貼紙片手に募集をしている事務所に駆け込んだのは数日前の事、その結果として無事に採用され、こうして美術館の夜間警備員のアルバイトをしていたりする。
 アルバイトの仕事自体は簡単で、真夜中の決められた時間に、美術館の中を見回って展示品に異常が無いかを確認して行くと言う仕事、本格的なセキュリティは警備会社に直通のシステムがあるとかで、言うならば形だけの警備だったりするそうだが、色んな事情(どんな事情かは、詳しく聞かなかったが)で、それが形だけだとしても警備員の見回りが必要だそうだ。
 ちなみに前任者の警備員も、私と同様の女性だったそうだが、急な事情で辞めてしまい、急遽募集をかけたのが今回の貼紙だとか(職員の人に聞いた話だけど、髪の長いのが印象的な結構な美人だったとか……)
 そんなこんなで私は、真夜中の美術館にて、懐中電灯片手に展示品の見回りをしていたりする……

「ここも異常なし!」
 あらかじめ決められた巡回ルートに従い、それぞれの部屋に置いてある美術品の状態をチェックし、異常が無いかを確認して回る。
 そして最後の巡回場所である地下の特別展示室へと、私は向かって行った。
 地下室に特設されている特別展示物のブース……『世界の彫像展』の展示室へと、足を踏み入れた時に、何か背筋に走るモノがあった。
「なんだろ……」
 背中に走った感覚……ゾクリとするような悪寒……言い様の無い危機の感覚……とでも言えばいいのだろうか?
 そんな感覚が背中に走った。
「気のせい、気のせい……早くチェックを済ませて、警備員室に戻ろう」
 自分に勇気を出させる為に、私はわざわざ声を出して展示室へと入る。
 パチリ! と展示室の電灯を灯そうとしたが、照明は点灯しなかった。
「あれ?」
 辛うじて夜間照明が、薄ぼんやりとした感じで、展示されている各種の彫像を浮き上がらせているが、展示室の中は全体に暗いままだ。
 パチパチと、証明のスイッチを何回か入れなおすが、相変わらずの照明は点かない……そう言えば、引継ぎの時に、上司にあたる人が言っていた。
『設備がすこし古いので、照明とかに不具合がある場所もあるけど、その時にもキチンと展示品のチェックだけは済ませて置くように……』
「はぁ〜……仕方が無いか……」
 私は懐中電灯を片手に、展示室の中へと入る。中に置いてある展示品に異常が無いかを確認する為に……そして私は、二度とこの展示室から出る事が出来なくなってしまった。

「全て異常……ナシ!」
 展示室内に置いてある十数体の彫像、その全てを見て回った後に、何の異常も無い事を言葉にして確認し、展示室から出ようとした時に、視界の片隅に何か動く物があった様なな気がした。
「ん?」
 気のせいだと思いつつも、その動く物があった様な場所へと、懐中電灯を向ければ……何の変哲も無い、女性の彫像が一体あるだけだった。
「そうよね、誰も居る筈無いもんね。それこそメトロポリタンミュージアムの歌詞みたいな事が、ある筈も無いし」
 それでも念の為にと、その彫像に懐中電灯を向けて、上から下へと一通り見てみる。そして彫像の足元にある展示物の説明を書いたプレートに眼を向け、何気に説明文を読んだりする。
「なになに、この彫像は……」
『……天才と言われた彫刻家〇〇〇〇氏の入魂となった最後の作品、文字通り魂が宿っていると言われた作品であり、今にも動き出しそうな……』
 何て事が書かれていた。
「魂が宿っていて、今にも動き出そう……て、ふふふっ……まさかね」
 あまりにも大げさな誉め言葉が書かれているプレートの説明文に、思わず独り言を言った末に、笑いが口から出てしまう。
「あら、本当の事よ」
 不意に頭上から、私の笑いに応える様な声が聞こえた。
「えっ! 誰!?」
 反射的に、声がした方……頭上へと懐中電灯を向けた先には、彫像しかない……
「気のせい?」
 彫像がしゃべる筈が無いと言う常識的な考え、だがその常識的な考えは、アッサリと突き崩される事となった。
「気のせいじゃないわよ、いま喋ったの私……あなた、なかなか可愛いわね……気に入ったわ」
 台座の上に立っていた女性の彫像が、立っていた台座から離れて私の所へと降りて来る。
「うそ……」
 あまりの事に、驚きよりも衝撃の方が強く、その場に私は呆然と立ち尽くしたまま、私の目の前へと近寄ってくる彫像の姿を、目を見開いたまま見る事しか出来なかった。
「前の娘は長い髪が綺麗だったけ、貴女みたいにショートカットの娘も可愛くて好みだわ……ほんと可愛い……さあ楽しみましょう……ねえ?」
 危険! 何か信号の様なものが、頭の中に強烈に鳴り響きながら点滅を繰り返す。早くこの場から逃げなければ!
 その危機意識が、呪縛を解放する。私は無我夢中で動く彫像から逃れようとしたが、足が動かない!
「えっ、何で、足が……うそ!」
 動かない足、恐怖の為に足が思うように動かないのかと、足の方へと視線を向けた私の眼に映ったのは、まるで石のように固まってしまっている私の足だった。
「なによこれ……なんで足が、何で動かないのよ!」
 必死に足を動かそうとしても、脹脛から下の辺りが石の様に固まり、動かす事が出来なくなっている。
「うふふふ……むだよ、逃げ足の速そうなウサギちゃんだから、ひとまず足を先に固めさせてもらったわ、安心しなさい……全身が固まるまで、まだ時間はあるから、それまでタップリと私が、あなたを可愛がってあげる……この世の名残を残さないように、本当にタップリと……ね」
「ひぃ……やめて、近寄らないで、こないでぇ! いやぁぁ――!」
 彫像が……女の姿をした彫像が、私の方へとゆっくり近づいてくる。その固い彫像の顔に、淫らな欲望を浮かべながら、私の方へと近づいてくる。
「大丈夫……とは言わないわ。冷たく……身体が動かなくなって、そして身体が冷たくなっていく感覚は、とても苦しくて絶望するしかないの……でもね、私はそれが好きなの……あなたが絶望に責め苛まれ、苦しみもがく姿を見たいの……とても見たいのよ」
「やめて、お願いだからやめて……わたし、そんなの嫌……絶対にいやぁぁ――!」
 逃げ出したい、だけど足が動かない、それどころか身体も思う様に動かなくなってきている……彫像の女が言っていた『固める』と言う言葉の意味、それが何であるかをハッキリ知ったのは、もう少しだけ後の事だった。
「怖がってちょうだい、足掻いてちょうだい……でも逃がさないわ、あなた私の網に掛かった美味しい獲物なんだから……」
 彫像の女の腕が私の方へと伸びて、締めているネクタイに手が掛かる。
「ひぃ!」
 その手がネクタイを解き、そして着ているブラウスのボタンを上の方から、順々に外して行く……
「やぁ……いやぁぁ……やめてよ、おねがいだから……やだぁぁ……」
 私の哀願の言葉は無視され、女の手は次々にボタンを外して行く……広げられていくブラウス、そして女の冷たい指先が肌に触れながら、全てがボタンは外され、ブラウスの前を大きく広げられる。
「着痩せするタイプなのね……意外に大きな胸ね……どんな形なのかしら、私に見せてちょうだい」
 揶揄する様な女の言葉、そして広げられたブラウスの下に身に着けているフロントホックのブラジャー、その留め金に女の指が架かり、その留め金が軽く外され、ブラジャーの前が大きく開け広がり、私の乳房が女の目に曝される。
「いやぁぁ!」
 剥き出しとなった乳房、その乳房に女の手が触れ、ゆっくりと値踏みでもするように揉んだ。
「柔らかいのね……それに形も綺麗だわ……何だか嫉妬しちゃいそう」
「くぅぅ……ひぃぐぅ、ひいぃぃ……いやっ!」
 冷たく、温度を感じさせない女の掌の感触は、まるで無機物に触れられている様であった。
「こっちの方は、どんな具合かしら?」
 乳房を揉んでいた女の手が、私の下半身の方へと滑るように流れ降りて来る。
「あぁぁ……やめて、さわらないで! おねがい、よしてぇ!
 足を持ち上げられ、太腿が露となり、スカートが捲りあがったのが解かる。そして捲りあがったスカートの下から、女の手が侵入してくる。
 持ち上げられた太腿、その太腿を名で擦るようにしながら、下着の中へと侵入してくる女の手……
「ああっ、嬉しい……まだなのね……まだ男の人を知らなくて、まだ一度もここに男の人のを、入れた事が無いのね……本当に嬉しいわ」
 女の指先が、私の胎内へと……突き込まれる。
「あひぃ!」
 突き込まれた指先が捏ねられる。そして、私の襞を舐る様に指先が嬲って行く……冷たい女の指先、それが私の内側で蠢き、私を犯して行く……
「どうして……私が、こんな目に……いやぁぁ……誰か、だれか……たすけてぇぇ……たすけてよぉぉ……」
 涙が止めども無く流れ出て頬を濡らす……が、流れ出てる筈の涙を感じる事ができない、そして女の舌が私の首筋を舐め、舐めながら女は言う。
「あちらをごらん……」
 と
 股間を嬲る女の手、そして片方の手が髪を掴む様にしながら、私の顔を横へと向ける。
「はぁひぃ!」
 横へと向けられた私の顔、そして向けられた先には大きな鏡が一枚……その大きな鏡には、私を嬲る女と、女に嬲られる私の姿が写し出されていた。
「うそ……そんな……うそよぉぉ!」
 鏡に移った私の姿……服を引き剥がされ、半裸にされた姿で女に嬲られている私の身体は、まるで石のようになり始めていた。
 先程女が言っていた『固める』と言う言葉の意味……それが何を意味するのか、鏡に映し出された自分の姿を見た時、私は知った……知ってしまった!
「い……いやぁぁぁ……」
 大声で叫ぼうとしたが、既に顔の半分ほどが石の様になっており、唇を思う様に動かす事が出来ない……腕が……太腿が……乳房が……身体のあらゆる場所が、石を思わせる様相を見せ始め、私の身体は確実に固まりだしていた。
「とても艶っぽくて、エロチックな姿で固めてあげる……それまで、私の遊びに付き合ってちょうだい……」
 女の舌が、既に石と化した私の首筋を舐める。すでに唇すら動かせなくなり、言葉を出す事も出来なくなり始めた私は、まだ石化していない眼から、涙を流す事しかできない……
「美味しいね……おまえの断末魔の涙は美味しいね……もっと味あわせておくれ……」
 流れ出た涙が首筋に流れ落ちる……そして、その涙を女は舌で舐めとる音を立てて啜る。
 女に弄ばれ続ける私……この地獄の様な状況が、何時まで続くのか解からない……ただ擦れていく意識の中、好きだった曲……メトロポリタンミュージアム……の歌詞の一節がリフレインする。

……タイム・トラベルは楽しい メトロポリタン・ミュージアム……

……大好きな絵の中に……

……閉じ込められた……


 それだけが……永遠に私の頭の中でリフレインされ続けた……


                                                         おわり





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