『 蟲師〜異伝 』

                       【 緑の座〜異聞 】

                        『 肉色の器 』

五百蔵(いおろい)しんら〜左手で描いた絵は全て生命を持つ、"神の筆(ひだりて)"を持つ少年。

廉子(れんず)〜しんらの家に棲んでいる、ヒトの形をした蟲。


                          【 始章 】


それは戯れでしかなかったのかも知れない……
子供は少年になり、青年へと変わり大人に変じる、その過程において異性と言うもに対して、強烈な憧れ…欲望を持ちうるのは、自然の摂理であり、仕方の無い事であった。
その日、五百蔵(いおろい)しんらが、自らが持ちうる"神の筆(ひだりて)"にて、まだ見た事がない筈の女陰の姿を、違える事無く描表わしたのは"神の筆"を持つ者であったかかもしれない、描表わした女陰が浮き上がり実体を伴い命を持つ、そしてしんらの股間へと這いずり近寄ってくる、しんらはそれを見つづけていたが、その描かれた女陰が自分の身体に触れようとした瞬間に、跳ね除けてしまった。
壁へとぶつかった女陰は、創造主たるしんらに拒否されたためなのか、存在自体がまだ不安定で固まっていなかったせいなのか、元の墨へと戻り壁に染みを作り消え去る。
後には荒い息をしている、しんらが残されるだけであった。
「色を覚える年齢になったか……」
物陰より、その一部始終を盗み見ていた、しんらの祖母であり蟲へと変じた廉子(れんず)が、呟く様に言う。
人里より離れた山奥の家、人に合う事すら稀であるこの場所に、人の娘が都合よく表れる筈も無い、如何にしんらが異性を求めようとも、その願いは適う事は無く、結果として高まる欲求を抑える術として、自らが持ちうる"神の筆"を使い、欲望を満たそうとしたのは、仕方の無い事と言えるかもしれない、しかしそれはあまりに身危険な戯れであり、許される事ではなかった。
それ故に廉子は、一つの決心をする、孫であるしんらを守り守護する存在となった、自分だからこそ出来る事を……

廉子は眠りと言うものを取る事が無い、長い夜の時をしんらの寝顔を見ながら一人過ごす。
それは廉子にとっては苦痛ではなく、幸福な一時であるが、今夜は違っていた。
すでに蟲となり、人の世の頚木か解き放たれた存在となった自分には、血の繋がりと言う禁忌は存在していないが、記憶がある、幼き頃より見続けていた孫のしんらを一人の男として見る事に…
「しんら…」
床に着いているしんらに廉子は声をかけるが、しんらは目覚めない、少しの安堵と、それよりも深い不安が廉子の中で湧き上がってくる。
廉子は、しんらの眠る布団の傍らに立つと、身に付けている着物の帯を解いていく、ハラリと帯が解かれて下へ落ちる、そして着物前が肌蹴られストンと着物も下へと落ち、廉子は一糸纏わぬ裸を空間に曝け出し、再度しんらに誘うように問いかける。
「しんら……起きているのだろう?」
その瞬間、しんらが眠る布団が微かに動く……最初に声をかけられた時点で、しんらはすでに眼ざめている、目覚めていながらも寝たふりをし続けていた。
理由は説明できないが、起きてはいけない様な気がし、寝たふりをし続けていた。
寝たふりをしている耳に、何か衣擦れのような音が聞こえる、直感で理解する、その音は廉子が着ている物を脱いでいる音だという事を、なんで着物を脱ぐのだろうか……昼間の事が思い出される、湧き上がってきた欲望の末に、戯れに描きあげた女陰、命を持ち近寄ってくるそれはグロテクスであり、欲望を抱いた代物とはあまりに違っていた。
恐怖に駆られて、自ら生み出した命を消滅させ、自己嫌悪に陥る……それを廉子に見られていたのだろうか?
グルグルとした興まりが頭を熱くさせて行く、このまま寝たふりを続けるのは既に限界であった。
その時に再び廉子から声をかけられる…起きているのだろうと…身体がその言葉に反応してしまった。
これ以上、寝たふりをし続けても仕方が無い事出である、それに背後で聞こえた衣擦れの音も気にかかった。
しんらは、布団の上に起き上がり、背後を見る…そこには廉子が立っていた。一糸纏わぬ素肌を晒して…
「廉子…」
ある種の予想はしていた事であったが、現実に見たそれは予想を遥かに上回る程に、きれいで神秘的ですらあった。
人から蟲になった存在、暗闇の中にほんのりと浮かび上がる白い裸身、大人の肉体を模していない、少女の肉体を模った蟲…人の形をとりながらも、人ではない存在…それは、異形であり、異形ゆえに人以上に美しく神秘的ですらあった。
「しんら、おまえも男なのだね…」
廉子がしんらの横に滑り込む様に寄り添う。
「あっ…この香りは…」
寄り添う廉子の身体から、心地よい香りが漂ってくる…それは光酒の香り、芳しき命の香りにて、それは生命の源であった。


                           【 続章 】


「すまなく思っている、せめてもの慰めを受け取ってくれ…しんら…」
"神の筆("を持つゆえに、しんらは人里へと居る事が出来ない、人里で暮らせば如何に隠そうとしても"神の筆"の存在は、他者に広く漏れ広がり、この世界に不幸を呼び起こすであろう。
それ故に、しんらは人里離れた山中に居を構え暮らす、しんらを守護し見守る蟲と化した、祖母の廉子と共に、永遠に来ないかも知れぬ、この世界が"神の筆"を必要とする時が来るまで暮らし続けるのだ。
それ故に、少年から青年になり、異性を求める年頃になったしんらには、恋をする相手も、その迸りそうになる欲望を叶えてくれる相手も、存在しなかった。
だから廉子は、しんらを慰めてやりたかった…いや、それは廉子自身の欲望であったかも知れない、不完全な蟲と化しながらしんらを見守り続け、今は完全な蟲となり守護する存在となりえた廉子……しんらを誰にも渡したくないという感情が芽生えたとしても、それは不思議ではなかった。
廉子の外見の姿は、少女であった…まだ膨らみを見せる前の胸、くびれがまだできる以前の腰の線、かろうじて柔らかさを感じさせる尻の膨らみ、それでも廉子の姿は美しく綺麗であった。
寄り添う廉子の柔らかな感触、鼻腔を擽る香気には、光酒だけではない香りが含まれており、血を頭を昇り上げさせる。
「しんら……」
廉子の言葉が、激しい交わりを開始するきっかけとなった。
「廉子…」
それは人ではなく、かっては祖母であった存在、蟲と化して自分と暮らしてきた存在…しかし、それで構わなかった。
抱きしめた廉子の柔らかな感触は人のそれであり、高まりながらも吐出す事の適わなかった欲望……いや、感情がしんらの中で沸き立ち溢れ出して来る。
しんらの唇が廉子の唇の重なり、口を吸う…しんらと廉子、互いの舌が互いの口の中で絡み合いながら、湧き上がってくる唾液を共に啜りあう。
「うあっ…」
重なり合っている廉子の唇の端から微かに漏れ聞こえる喘ぎ、しんらの耳朶に心地よく聞こえる廉子の声……どの様に廉子を扱えば良いのか、しんらには見当がつかない、だが互いの抱き合いながら重ねられた肌の温もりが、次にどうすればよいのかを知らせ、しんらはそれに従い廉子の胸に手をあてがう。
まだ膨らみを感じさせない胸、しかし触れた掌から伝わる暖かさが、しんらを安心させて、更なる行動へと導いていく、胸を触る掌が全体を摩る様に動き、小さな豆粒ほどの乳首を摘まみ上げ嬲る。
「うっ!くぅぅ…んぁっ!」
人ではなく蟲である廉子、しかし交わりの感覚は変わらない、しんらの愛撫に身を任せながら、その感覚を……人であった時の感覚を身体中で受け止めて続けた。
小さな乳首が、その小ささに見合うだけ膨らみ硬くなる、その乳首を口に含み転がす様に舐めしゃぶり、その感触を口全体で味わう。
「ひぃぅ……くぅぅん!」
甘く切ない廉子の喘ぎ声、その声に押されるように、乳首を含み舐めしゃぶっていた舌が、乳首を離れて下半身へと唾液に跡を廉子の肌に残しながら降りて行き、まだにも生えていない一筋の割目へと舌先が侵入した。
「はぁうっ!」
舌先が、割目に触れた瞬間に廉子は声を出し、その身体を硬直させる、ピンと伸ばされた足が痙攣しながら畳を擦り、畳に立てた爪が畳を掻き毟る。
柔らかな廉子の腰を掴み、廉子を逃さぬようにしながら、その股間の割目に舌を差し入れ舐め上げ、微かに膨らみ始めた肉芽を刺激して行く
「これ…」
廉子の股間を舐め上げているしんらは、舌先に粘りを感じる、自分の唾液ではない別の粘り……廉子の股間から湧き出してきた愛液を舌先に感じた。
「きて…いいよ…しんら…きなさい」
廉子の喘ぐような誘いの声に、しんらは股間に埋めていた顔を上げる、そして廉子の小さな身体を抱きかかえる様にしながら、その両足を大きく広げ、あらためて廉子の股間を見る。
「綺麗だ……」
戯れに描いた女陰とはまるで違うそれは、しんらの眼に綺麗で湿り気を帯びた肉色の器に見えた。
「……」
自分の唾を飲み込む音が、奇妙に大きく聞こえる、心臓が早鐘のようにドキドキと動いている。
「恥ずかしくなる、そんなに見ないでくれ…しんら……はやく…」
しんらが、その言葉に誘われるように、廉子の広げられた両足の間に身体をゆっくりと沈みこまして行く、しんらの硬くなっている肉棒の先端かにじみ出る汁と、廉子の股間から湧き出してきている液が触れる。
「うっ!」
「ひゅぅ!」
二人の口から同時声がで…
「ふんっ!」
「あうっ!」
しんらの腰が、廉子の股間に沈み込む、小さく締め切られていた廉子の秘所が、しんらの熱い塊を受け入れて押し広がっていく、それでも塊を押し出そうとする圧力が抵抗し続ける。
「廉子……」
「しんら……」
互いの名を呼び合う二人、次の瞬間に抵抗を押し破ったしんらの塊が、廉子の身体の奥深くに突き込まれた。
「ああっぁぁーーー!!」
廉子が悲鳴にも似た声を上げ、身体を硬直させる、畳に立てていた爪が掻き毟られて、右手の人差し指の生爪が剥がれ、畳に鮮烈な朱色の跡を描きあげた。
しかし、その声はしんらの耳に届いていなかった、自分の欲望の塊を激しく締め上げてくる、頭が吹き飛ぶような感覚、温かく湿りけを帯びた廉子の身体の膣は、しんらの塊を食え込み放さぬようにし、繋がりは一層深くなって行った。
幼い身体の廉子の上で、しんらが動く……繋がった部分を中心にして、互いの身体を貪るように抱きしめ合い、互いの唇は相手の身体に口付けを刻み込み、口を吸いあいながら、しんらは廉子の身体の一番奥深くに、自分の精を放ち…はてた。


                             【 余章 】


「よう」
玄関先に上がり込み、家の中に声をかける、蟲師でありギンコが、この家を訪れたのは数年ぶりのことであった。
人を遠ざける暮らしをしている、しんらにとってギンコは、唯一心許せる存在であった。
「ギンコか」
主人である、しんらの代わりに出てきたのは、しんらとこの家を守る蟲、廉子であった。
「よう、あいかわらずか」
飄々とした口調で挨拶をするギンコ、廉子が蟲になる時に世話になった存在でもあり、廉子はギンコが家に来る事を許していた。
「ああ、かわりはないが……一つ聞きたい事がある、良いか?」
「聞きたい事、なんだ言って見ろ」
廉子は語りだす……廉子が聞きたい事とは、蟲と人の間に子を為すことが出来るかという事であった。
「子供ねえ…」
ギンコは暫し思案し、そして答える……珍しい事だが、無い事も無い……それが、ギンコの答えであった。
「おい、どうして急にそんな事を聞く」
ギンコの問いに廉子は答える事無く、艶笑を浮べて家の闇の中に消え去る、あとには玄関先で立ったままのギンコが残されているだけであった。
 

                                                     終

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