柊三姉妹物語


                                章乃六


                       【 亜衣〜其の弐(後編) 】


                              
『 カモネギ 』       


 来客を知らせる玄関チャイムが鳴ったのは、午前も早い時刻だった。
 連休二日目……妻と子供達は、一足先に妻の実家へと里帰りを果たしている。片付けなければならない仕事が残っていた俺は、一日遅れの便で後を追いかける事になっていた。
 ただし、それも今日の午後遅くの便で、家を出るまで時間の余裕がまだあり、それまで一休みを決め込んでいた時に鳴ったチャイムの音だった。
 寝転がっていたソファから身体を起こし、玄関先を映し出すモニターに目を移す。
「ほっ!こりゃ……」
 モニターに映し出された人間に記憶がある。名前は……柊亜衣、椛と由美子の妹だ。
 なんで俺の家に来たか、それを考えるほど俺はバカじゃない、どうして知ったかまでは知らないが、俺の家を訪ねてきた理由は予想がついた。
 この小娘が俺の家に尋ねてきた理由、それは姉がらみの事に間違いないだろう。何故なら俺は、この小娘の姉達を愛人にしているのだから。
 最初に長女の椛の奴を薬を使って、自分の物したのは一年ほど前……そして次女の由美子を強引に犯ったのは一ヶ月前、それ以来二人の肉体を何度も味わった。
 長女の椛にいたっては、うまく騙して裏ビデオを撮影して小遣い稼ぎの足しにもしている。そんな二人の妹が、俺の家に訪ねて来たと言う事は、姉絡みの事に間違いだろう。
 ただ問題は、どれ程まで事情を知っているかと言う事と、はたして姉である二人がこの事を知っているかと言う点、とにかく騒がれないうちに家の中へ入れたほうがいいだろう……ちょうど都合よく、俺以外の人間がいない事だし……

「姉さん達と別れてください!」
 それが開口一番の台詞だった。
 出されている紅茶には口もつけず、俺の方を睨みながら喚いている。
「最初に誘ったのは、君のお姉さん達の方なんだよ」
「嘘言わないで!」
 座っていた椅子から立ち上がり、噛み付くような勢いで顔を近づかせ、怒りに震える表情を見せながら叫ぶその姿、なかなかに姉思いの少女のようだ。
「まずは紅茶でも飲んで、少しは落ち着いてくれないか?」
 いきり立つ亜衣に、お茶の入っているカップを指差し言う。
 しばしの睨みあいの様な時間が経過した後、椅子に座りなおした亜衣は、出されていた紅茶(すでに冷めてしまっている)を一気に飲み干し言う。
「飲みました!呑みましたから、姉さん達と別れてください!」
 同じ言葉の繰り返し、芸が無いといえば芸が無いが、これがこの少女の本音であり、真剣な気持ちなだろう。
 考えてみれば、自分が敬愛する姉二人が同じ男の愛人をしているという事実、信じられる筈も無ければ信じたくも無い事だが、紛う事なき事実――この様に感情的になるのは、ある意味当然の事であろう。
「何度も言うけど、最初に誘ってきたのは君の姉さんの方だったんだよ……」
 俺は簡単に事情を説明する――椛姉さんの時は、何かと親身にしてあげていたら、彼女の方から抱いてくださいと言って来て、不倫と言う立場で良いから力になってくださいと、この関係を続けていると、そして由美子姉さんの方は、どうゆうわけだか知らないが、僕と椛との関係を知り、君と同じ様に最初は別れてくださいと言いに来ていたのだが、何時の間にか愛し合うようになり、関係を結ぶようになったと、自分で言いながら白々しくなるような戯言を言う。
「嘘です!そんな嘘言わないで、椛姉さんはそんな人じゃないし、由美子姉さんは結婚を約束した人がいるんです。これ以上嘘を言うなら、姉さん達にも、会社や彼方の家族や――警察にだって言います」
 バン!と紅茶が置かれていたテーブルを叩き、掴み掛かるかの様に椅子から立ち上がり、怒りに満ち溢れた表情を俺に見せつけるが、次の瞬間にガクリとその場に崩れ落ちる。
「はぁれ?」
 床に倒れこんだ亜衣が頓狂な声を出し、起き上がろうと足掻くがゴソゴソと床を這うように蠢くだけで、くにゃりという感じなって立ち上がる事が出来ないで、その場でごそごそと手足を動かし続けるだけだ。
 その姿を見ながら俺は考える――紅茶に入れた薬、1年前に姉である椛のグラスに混入させた代物の薬効が、意外に薄れてしまっているなと言う事をだ。
 本来ならストン!と言う感じで意識を失い、同時に脱力してしまう筈なのだが、意識の方は朦朧としながらも残っているし、肉体の方も完全に脱力したと言う風には見えない、あの時は酒に混ぜ込んだから、よく効いたのかも知れない……そんな事を考えながら、俺は倒れたままの亜衣を担ぎ上げた。
「ちょっ、ひゃにお、ほろひぃてぇ、ほろひぃなはぁいひょ!」
 よく回らない舌で、呂律の回らない抗議の声を張りあげる亜衣、同時に手足をじたばたと動かし抵抗しようとするが、手足に力がぜんぜん入らず、揺らめくように動かす事しか出来ずに、まるで抵抗になっていない
「教えてあげるよ、本当は姉さんがどういう具合に私……いや俺が、どんなの風にして姉さん達を可愛がってあげたかをじっくりとね」
「ひぅ、ひゃめてぇ!ひゃめなはぁひよぉ!」
 呂律の回らない悲鳴と、同じく力ない動きしかしない手足、それを聞き感じながら俺は、担ぎ上げている亜衣のスカートを捲り上げ、ショーツが剥き出しとなった尻へパン!と掌を叩きつける。
「ひぃひゃぁ!」
 奇妙な悲鳴を出す亜衣、叩きつけた掌をそのまま尻に張り付かせ、弄るように揉み解しながら思う……わざわざ、こんなガキまで襲うほど俺は飢えていない、だが目の前の現れた美味しそうな獲物を見逃すほど愚かでもない……それが多少、小便臭そうな小娘であったとしてもだ。


                            『 おたのしみ 』


 尻を撫でつけながら俺は、亜衣を担ぎ上げ寝室へと連れて行き、寝室の真中に設置されているベッドの上へと放り出す。
「ひゃう!」
 呂律の回らない悲鳴をあげながら放り出された亜衣が、糸の切れた操り人形の様に手足をバラバラにした格好で、ベッドの上に弛緩した身体を横たえる。
 何とか逃げ出そうとするかのように手足を動かすが、その意思は満足に手足へとは伝わらず、ただ意味のなさない奇妙な動きを手足にさせるだけであり、逆に身に着けているスカートが捲りあがり、白くなかなかに魅力的な太股と、薄いピンク色の下着が露出してくるだけだ。
 そんな亜衣……いや獲物を見ながら俺は、着ている服をゆっくりと脱ぎ始めた。
「にゃにゅを、ひゃめれぉよぉ」
 相変わらずの意味不明の言葉を出しながら、ベッドの上から逃げ出そうと足掻く亜衣、動かない手足を必死に動かし、それでも何とかベッドの上からゴロンと床へと落ちる事に成功し、這いずるように部屋の出口へと向かうが、その動きは緩慢でギクシャクとした動きでしかない、そんな愛の動きを面白く見ながら脱いだ服を放り出して行く、ようやくに閉じ合わされたままのドアまで辿り付いた亜衣が、ドアを必死に開け様として、ドアに爪をカリカリと立てながら引掻くが、閉じ合わされたままのドアは開く筈も無く、それ以上逃げる事が叶わずに、引き攣ったような声を出しながら無駄な足掻きを見せ続けている。
そんな亜衣の背後に近づいた俺は、逃げだそうと足掻き続ける亜衣の肩へと、手をそっとのせて言う。
「なんだ、ベットの上じゃなくて、床で犯されるのが好きなのか、俺は優しいから希望通りの場所で犯してやるよ」
「あひゃぁうっ!」
 何か意味不明な叫び声をあげる亜衣、その身体を肩にかけた手で思いっきり背後に引き倒し、床へと押し付ける。そして仰向けに倒れこんだ亜衣の身体の上へと、トランクスすら脱ぎ捨てて、全裸となった俺は覆いかぶさって行った。


 怒りしかなかった。
 だから、その怒りに目が眩んでしまい、こんな事になってしまった。
 出されたコーヒー、本当なら警戒しておくべきだったのに、男のあまりの尊大な物言いに腹を立て、出されるままに思わず一気に飲んでしまった結果が、こんな事になってしまった。
 しまったと思った時は、既に遅く……喋る事すら満足に出来なくなってしまい、思うように動かない身体を抱えられ、この場所へと連れ込まれてしまう。
 抱えあげられている最中に、捲り上げられたスカートの下を這い回る手の感触に鳥肌が立ってくるのがわかるが、どうしようもない……動かない身体を何とか動かそうとしても無駄、そして連れ込まれた部屋のベッドの上に放り出される。
 動かない身体を必死に動かそうと努力し、頭を何とか男の方へと向け、罵る声を出そうとしたが、自分でも一体何を叫んでいるのかも解らない、ふにゃふにゃとした意味不明の声しか出ない、だけど目だけははっきりと見えており、そんな目に服を脱いでいく男の姿が見えた。
 今まで怒りに占められていた自分の中に、初めて恐怖がわきあがってくる。そして湧き上がってきた恐怖が、動かない手足を強引に動かし、ベッドの上から転げように床へと落ちる事に成功する。
 これから自分が何をされるのか……あの時に見た姉である由美子の姿が脳裏に蘇る。男の組み伏せられ背後から緒kされている姿、そして無理やりに口へと男の物をつきこまれている姿……嫌だった!あんな事をされるのするのも嫌だった!
 だから動かない身体を必死に動かし、男から逃げ出そうと必死に床を筈理、何とかドアの前まで着る事ができたが、閉じ合わされたドアは開く筈も無く、無意味に開かないドアに津を立て続ける事しか出来ない、そして肩にかかる手の感触と、耳元に囁かれる男の声……
 視界がぐるりと廻り、頭を床にうちつけてしまう。飲まされた薬のせいなのか、それとも頭をぶつけた衝撃のせいなのか、頭がふらふらして目の前が暗くなってくる。そして暗くなっていく視界の中、私は自分の上に覆い被さってくる男の姿をぼんやりと見ながら、意識を失った。


「あふゅ!」
 小さな呻き声を出し、亜衣は意識を失ったようであった。
薬のせいと言うよりも、引き倒した時に後頭部を床に打ちつけたせいだろう。まあ、あんまり騒がれたり暴れられたりするよりは、犯りやすいと言う所か?
 覆い被さっていた身体を離し、あらためて亜衣の着ている服へと手を伸ばし、その服のボタンを外して行く……抵抗するなら、強引に服を引き裂いてやろうかと思ったが、意識を失った状態なら、そんなに乱暴にしなくてもいいだろう。
 それに服を破いたりすれば、後から面倒な事になるかも知れない……取り敢えずは、服のボタンを外して上着を剥ぎ取り、その後にスカートも脱がせる。
 薄いピンク色のショーツ、そして白く伸びやかな太股……ブラウスを剥ぎ取り、ショーツと揃いであろう、やはり薄いピンク色をしたブラジャー露出させる。
 ブラジャーとショーツ、そして白い靴下だけとなった亜衣の身体を、じっくりと値踏みをする様に上から下へ、下から上へと何度も視線を這い回らせた後に、俺は立ち上がり部屋から出て行く……そして1分後に、自室から取ってきたデジカメで、亜衣の姿を撮影した。
 亜衣の姉である椛や由美子の裸体を何度も撮影したデジカメだった……その同じデジカメで、亜衣の裸体を撮影するのは、何とも奇妙な感覚を与えてくれ、シャッターを切りながら、何故か笑みが自然に顔に浮き上がってくるのを、抑える事が出来ない……だから俺は、笑みを浮かべながら、笑い声を漏らしながら、亜衣の姿を撮影し続けた。

 一通り亜衣の姿を写し終える……撮って行く過程で、ショーツは既に脱がした……すでに黒く生え剃り始めている股間を指先で押し広げ、その奥に隠されている部分すら、唾で濡らした指先で嬲り、薄く開いた襞の奥から、ヌラリとした透明な汁が出ているシーンや、尻の穴すらアップで撮影し終え、その皺の一筋一筋も記録しきっている。
 半分ずらしたブラジャーから放り出されている乳房と、小さくまだ陥没したままの乳首へ手を伸ばし、その先端を指先で嬲りながら、膨らんでくる乳首を何枚も写して行く、口に含んで舌先で嬲るった後の濡れている乳首、それを指先で摘まみ揺り動かしながら刺激して行く……意識を失っている筈の亜衣は、股間を嬲られた時に……乳首を嬲られた時に……薄く小さな声を漏らし、弛緩した身体を緊張させ、ビクつかせ反応する。
 それらの反応を楽しみ、満足行くまでにデジカメで記録した後に、俺は亜衣の上に覆い被さり、既に嬲られ続けた事によって濡れだしている股間へ、いきり立ったペニスをじっくり挿入していった。

 その直前まで意識は何も無かった。
 あえて言うなら暗闇の中……そんな場所にいたような気がする。そして暗闇の中にあった意識は、火花が飛び散るような激しい痛みと共に破られ、暗闇が反転し激しい光が頭の中に溢れ出し、それが口から叫びとなって吐き出された。
「いぎぃあぁぃぃーーっ!」
 大きく開け広げ、自分が吐き出しと信じられないほどの叫び声が聞える……だが、その叫び声を全部吐き出すことは出来なかった。
 開け広げられた口は、すぐに塞がれ何かを捻じ込まれ、吐き出し続けられるべき叫びは口の中でくぐもり、激痛により見開かれた瞳の先には、私の上に覆い被さっている男の顔が……醜く歪んだ笑みを浮かべている顔が映し出された。
男の身体が押し付けられ、その動きに合わせるように激しい痛みが、股間から広がって行く、何をされてるのか理解する……信じたくは無いが、何をされてしまったのかを、激しい痛みが私に教えていた。
 無駄な抵抗……遅すぎる抵抗だと、頭の中で知りつつも身体は抵抗を繰りかえし、覆い被さっている男の身体を跳ね返そうとするが、まだ完全に身体は自由に動かず、その力は弱々しい、仮に薬を飲まされていなかったとしても、男との体格の差は明らかであり、抵抗しきれる筈も無かっただろうが……
「ぐぅ!うぐぅぅーー!」
 捻じ込まれた詰物が声を塞ぐが、その詰め込まれた物が、自分のショーツである事も解らない、ただ身体全体に広がって行く痛みに身体を震わせながら、その痛みから逃れようと足掻き続けた。


                                 『 嬲り 』


 マグロ状態……言うならば死体と同じだった肉体が、突然に息を吹き返し動き始める。
 突き入れた瞬間は緩く、意外なほど簡単に挿入して行ったペニスが、急激に締め付けられ強い抵抗感をを感じるようになり、弛緩しきっていた身体が、ビクビクと痙攣する様に動いたかと思うと、閉じられていた瞳が見開かれ、大きく開け広げられた口から悲鳴が溢れ出すのを、手に持っていた脱がしたばかりのショーツを、その開け広げられた口へと捻じ込み、吐き出される叫び声を途中で止めさせる。
 だがコーヒーに混ぜ込んだ薬が、まだ効き目を持続しているのだろう。その抵抗の動きは弱々しく、ある意味で言えばちょうど良い抵抗の具合で、女を犯すという喜びを満足させてくれる、ほどよい抵抗でああった。
 くぐもった声を出し続け、足掻き続ける亜衣……その見開かれた瞳に俺の姿が写っている。だら俺は、その瞳に向かって笑みを浮かべてやった……誰に犯されているのかをはっきりと解らせるためにだ……
 そして捻じ込ませたペニスを、身体全体を使ってさらに捻じ込み、くぐもった悲鳴をあげさせながら犯し続ける。
 まだ膨らみ切っていない小さな乳房を揉み、乳首を口に含んでしゃぶる。髪の毛を掴み上げ、仰け反らせた顔を嘗め回し、溢れ出してくる涙を舌先で掬い取り舐める。
 二人の姉に比べれば貧弱で、面白味の無い肉体ともいえるが、贅沢は言わない……勿体無いお化けに、今夜出てこられるのは嫌だかだ……などと言う下らない事を考えながら、俺は亜衣を犯し続け、その欲望の濁液を膣内へと思いっきり吐き出した。

  

 口に捻じ込まれていた自分のショーツを吐き出し、男の方へと涙で曇っている眼差しを男の方へと向けるが、男はその姿を薄笑いを浮かべながら見下ろして言う。
「姉さん達に比べたら、ちょいと貧弱だったが、それなりに楽しめたよ、ありがとう」
 その言葉を聞いた時、亜衣は何か大声で叫びだしそうになったが、喉に声が詰まって呻くような声しか出せない、仮に無理に何事かを叫べたとしても、その叫び声は声にはならず、涙へと変わり果ててしまう事は確実であり、亜衣は歯を喰いしばりながら、自分を見下ろしている男を見返す事しか出来なかった。
 そんな亜衣の姿を男はじっくりと見る……貧弱な肉体だといいながらも、出るべき場所は膨らみを持ち、先程まで自分のペニスを受け入れていた薄い茂りを纏わせた秘所の具合は悪くなく、吐き出したばかりの自分の欲望の濁液を漏れ出せているのも、なかなかにそそる物がある。
「それじゃ、次は口ででもしてもらおうかな、姉さん達は美味しいと言いながら飲んでくれたよ」
 男の言葉を聞いた瞬間、亜衣は身体をビクリと震わせ、その場から逃げだそうとしたが、いまだに薬の影響が残っているのか、ろくに立ち上がる事も出来ずに、その場にへなへなと崩れ落ち、ベチャリと自分の股間から漏れ出した濁液の上に座り込んでしまう。
「もう遅いんだよ、無駄な事はよした方がいいぞ、それとも姉さん達も呼んで、楽しもうか?」
 頭を押さえ、髪を掴み上げ、顔を剥き出しにさせたペニスの前へと、強引に向けさせながら男が言う。
 そして突付けられたペニスが、口の中へと捻じ込まれていった……

 肉の塊が、口の中で膨らみながら舌を押さえつけ、喉の奥へと減り込んで行く、そしてぬるりとした味と感触が広がりながら、脈打ち続ける。
「ぶぅっふっ!ぐぅぅ!」
 頭を押さえつけられ、口中へと突き込まれ続けるペニス……吐き気を覚えながらも、それを受け入れ続ける事しか出来ない自分、惨めであり悲しさと悔しさが頭の中へ広がる中、男の声が聞えてくる。
「出すぞ、しっかりと全部飲めよ!」
 そして、次の瞬間に口中に広がる生臭い液の味と感触が広がる。前に一度だけ味わった櫂のモノとはまるで違う、おぞましく吐き気を催すモノ……それが喉の奥に吐き出され、お腹の中へと落ちて行くのを感じた……


                              『 すれ違い 』


 何をする事も無くベッドの上に横たわり天井を見上げる……視線を動かし、隣の部屋を見れば乱雑(自分なりには整頓しているつもりだが)に摘み置かれた絵の道具類が、所狭しと部屋の大半を占めている。
 本当なら今日は、亜衣姉ちゃんがモデルに来てくれる筈だったのだが、何か急な用事が出来たとかで、キャンセルになってしまい、する事も無く暇な一日を過ごす羽目になっている。
 再び視線を天井へと向ければ、何となく天井板の木目が亜衣姉ちゃんの姿に見えてくるのは、どうしてなんだろう?
「亜衣姉ちゃん……どうしたんだろ……」
 ここ最近……一ヶ月ほど、亜衣姉ちゃんの様子が何かおかしい、何処がおかしいとは言えないが、おかしいのは間違いが無いと確信できる。
 何か心配事があるなら、話してくれればいいのにと思いながらも、まだまだ自分は亜衣姉ちゃんの弟のような者でしかないと思いが湧き上がり、少々やるせない気持ちにもなってくる……そして、再び天井をぼんやりと見上げてしまう。
 その時に、何かの気配……と言うか、何か自分を呼ぶような声が聞えたような気がした。
「亜衣姉ちゃん?」
 思わず口に出た言葉、何でそう思ったのかは解らない、だが亜衣姉ちゃんに呼ばれたような気がした。
 寝転がっていたベッドから起き上がり、階下へと降りて行く、そして玄関のドアを開けようとした時に、背後から母の声がした。
「ちょっと櫂、荷物を下ろすの手伝って、降りてきたんでしょう」
 玄関口まで降りた状態から再び引き返して、居間で自分を呼んでいる母の所へと向かおうとしたが、玄関のドアをもう一度見る。
「まさかね」
 そう呟くと、居間で自分を呼んでいる母の元へと向かった。
 もしも櫂が、そのまま玄関のドアを開けたなら、立ち尽くしている亜衣の姿を見る事が出来たであろう……そして何が起こったのかを知り、これから引き起こされる最悪の事態を避ける事が出来たかも知れない……
 だが玄関は開かれず、玄関先に立っていた亜衣は、チャイムを押す事も、ドアをノックする事も無く、その穢された身体を引きずるようにして、自分の家へと帰って行った。
 そして櫂が、玄関のドアを開き外を見回したのは、亜衣が道を曲がった直後であり、外を見回した櫂の眼には、何時もと変わらない風景だけが映し出され、亜衣に何が起こったのかを知る事は無かった。
 



                                    章之六・・・『 亜衣〜其の弐(後編) 』 おわり

                                    章之七・・・『 椛〜其の参 』へ つづく



                                             成人向け書庫へ戻る