詩織〜外伝



              
                                    


 夢を見た……
 青白い月光の下……
 女が樹に縛られている……
 蛇が女の肉体に絡みつく……
 蛇のように縄が女を締め上げる……
 女の紅い口唇から這い出た舌が蠢く……
 それを見上げている俺に女は低く囁く……
「坊や……お帰り……見ては……だめ……早く……お帰り……」


                                  第1章 


                                「 電話 」

 
 ベッドの上で俺は目覚める。何時の頃からだろうか、見始めるようになった夢だった。夢の内容は不快ではない、それどころかこの夢を見るのは密かな楽しみであった。
 俺はパジャマのズボンをずり下げる。トランクスに隠された股間が異様なほどに膨らみ勃起しているのがわかる。あの夢を見た後は、いつもこうだ……俺はトランクスを脱ぎ捨て、勃起しているペニスを握り締め、扱き始める……ある女の事を思い描きつつ……
「詩織……」
 俺は、女の名を呼ぶ……学園のマドンナ……けして手の届かない存在……俺のあこがれ……

『早く……きて……』
 想像の中で、詩織は俺を誘う……俺は詩織を抱きしめ、着ている服を剥ぎ取る、白いブラジャーに隠された、ふくよかな胸があらわになる。震える手で、俺は乱暴にブラジャーを引き千切り、剥き出しになった白い乳房に舌を這わせる。
『もっと……もっと、強く吸って……お願い……』
 詩織は喘ぎなら言う……その言葉に促されるようにして、俺は乳首を強く噛む、そのたびに詩織は浅い喘ぎ声を漏らす。舌先で片方の乳首を転がしながら、もう片方の乳首を指先で愛撫する……緩急をつけながら、慈しみながら、乱暴にしながら……乳房を責めていく
『ひっ! ああっ……! ひゃっ!』
 詩織の切ない声を聞きながら責めるポイントを移していく、腋の下……乳房の下……わき腹……臍の周り……舌先と指が詩織の肉体を這い回り刺激する、そのたびに詩織は淫らな声を出しながら耳元で言う。
『愛している……愛してるわ……島田……く……ん……すき……』
 俺は濡れ滴っている股間に舌を指し込む、どこか生臭く、それでいて妙に甘い、詩織の女の臭いを存分に嗅ぎながら、舌先を大きく広がり受け入れる準備を済ませている秘所にもぐり込ませる。
『ひゃはっ―――! ……あ……あ……あっ…………』
 詩織が、ひときわカン高い声を張り上げる。舌先が膣壁を嬲るかのように蠢く、注ぎ込まれた唾液と愛液が混じりあい、詩織の股間と俺の顔を濡らす。
 俺は顔を詩織の股間から上げて、あらためて詩織の口唇を貪るかのように吸う。口の中に溜めていた、俺の唾液と詩織の愛液の混合液を口移しで詩織に飲ませる、詩織は抵抗もせず、逆に啜るように舌を絡みつかせ混合液を嚥下する。
『もっと……もっと、ちょうだい……うんっ! んん……んあっ……』
 詩織の言葉に応えるかのように、俺は詩織の口唇にいきり立っているペニスを突き込む、柔らかく暖かな詩織の口唇と舌の感触、爆ぜそうになるのを堪え、抉るように詩織の口唇を思う存分に汚す。やがて、爆ぜる寸前のペニスを口唇から引き抜き、あらためて詩織の両足を大きく開かせる。
『あっ! だめ! はずか……しぃ……』
 恥らい、微かに抵抗する詩織の股間を剥き出しにして、秘所に自分のペニスを押し当てる、ネチョリとした湿った感触、グニャリとした暖かな柔らかさ、ビチリとした濡れた抵抗感……それらをペニスの先端に感じながら、一気に詩織の肉体にペニスを突き刺す!
『いぃ―――!』
 詩織が悲鳴とも歓喜の叫びとも、取れる声を張り上げる
『あっ! ああっ! いく……! いい……あうっ!』
 俺は、突き込んだペニスを蠢かしピストン運動をさせる、そのたびに詩織が歓喜の奮えた声を出す。
 やがて、俺は詩織が絶頂に達すると同時に、詩織の肉体の中に精液をほとばしらせる、歓喜と絶頂に中で…………・

 両手に、ねっとりとこびり付く自分の体液の生臭い臭いが現実に俺を引き戻す。
「詩織……」
 俺は、もう一度名を呼ぶ……そう、彼女に対して出きる事は、せいぜい彼女の名を呼び、彼女の面影と肉体を思い描き、自分を慰めることくらいしかできないのだから……彼女は、学園のマドンナにして才色兼備、およそすべての物を自分の物にしている女性……無論、天性の資質もあるだろうが、彼女はそれに見合うだけの努力をしてるのも良く知られている、唯一の不幸は、最近両親を事故により失った事だろうか? しかし、それすらも彼女を曇らす事は無く、両親を亡くしながらも健気な態度で学校に通う姿は、クラスの連中はもとより、学校中の人間の賞賛を呼んでいる……それに引き換え俺は……自嘲する事しか出来ない、勉強、スポーツともに、まるで駄目……おまけに性格的に他人と上手くつきあえない事もあり、はっきり言えばクラスの嫌われ者である。さすがに彼女はクラスメイトと言う事もあり、あからさまに無視をするとか嘲るなどと言う事は無いが、けして俺に好意を持っているわけではない……当然のことだ。
 俺は、両手とベッドにあふれ零れている体液をテッシュで拭き取り、後始末をする……一応の後始末がすんだ後に喉の渇き覚える、俺は水を飲みに階下の台所に降りていった。
 かなり広い家、土地成金の親父が金にあかして立てた家であった。静まり返った家の中、通いのお手伝いさんは、とうの昔に帰っている、親父の奴もまだ帰ってないようである。
「ちっ、クソ親父が……」
 吐き出すように、親父を罵る言葉を吐き出す。土地神話が崩れ去り、バブルが崩壊する寸前に親父が売り逃げた土地の代金は膨大な額であった。有り余るほどの金と時間、親父はこの家にめったに帰ってこないで遊び歩いている、当然の事ながら俺は、そんな親父を軽蔑……いや、憎んでいると言ってもよかった。また、親父も俺の事を嫌っているのを確信している……血のつながった親子、互いの欠点が自己に反映され、苛立ちと不快が互いに溝をつくりだし、血縁ゆえの憎悪が互いにわだかまっていく……そんな二人が嫌いあいながらも一つの家に住んでいる……これは、苦痛以外の何物でもなかった。もし、お袋が生きていれば、まだ救いが合ったかもしれない……しかしお袋は十年以上昔に死んでいた……
 お袋の思い出は、ほとんど無い……ただ、記憶の一コマに母の姿がある……暑い夏の日、俺の手を取り、日傘をさして歩く母の姿……繋がれた母の手の透き通るような素肌の色が記憶の片隅にあった。

 台所で蛇口から直接に水を飲む、乾いた喉に水が染み込んでいく……
「ふ〜……」
 俺は、台所に置いてある椅子に座り、息をつく……そして、何時ものように想像する……親父の死を……
 初めて親父の死を願い、想像したのは小学生の頃だった。下品で乱暴ですぐ暴力をふるう親父……だから小学生の時は、純粋に親父の死を願った。中学生の時は、親父が死ねば金を自由に出来ると考え想像した。高校生になり世の中の仕組みがある程度わかると、親父の死により全てが俺の物になる……わけではない事に気がつく、遺産が入ってくる? ……現実は甘くない、親父が死ねば優しい親戚連中が集まってきて、僅かばかりの金を俺に残して全て持っていく事は想像出来た、その僅かばかりの金も俺が成年になるまでは、自由にする事は不可能だろう。自由になれる? ……金があっての自由である、金のない人間にどのような自由があると言うのか? だから考える、親父が死んだら、何を一番初めにするかを…………

 プルルルル―――! プルルル―――!………………
電話の呼び出し音が、静かな家に鳴り響く、親父の死を想像するのを中止して、俺は鳴り響く電話の受話器を上げる。
「はい、島田ですが……」
今時分どこから、掛かってきたのか? やや不満げな口調を、あらわにして電話に出る。
「こちら〇〇警察署ですが…………」

 受話器を戻して、俺は息を吐き出す……笑いが、こみ上がって来る……
「くくく……」
 押し殺したような笑いは、少しずつ大きくなっていく……
「はははぁ……」
 俺は、はっきりと笑い声を出す。そして、笑いながら狂ったように声に出して、思いを吐き出す。
「あ――はははっ……死にやがった! ひひひっ……死にやがった! あの糞親父め! はははっ―――!」
 俺は、心の底から笑い転げた。


                                                    第一章…了 






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