食材


                                 下準備


「おねがい! 殺さないで、おねがい! 赤ちゃんがいるのよ、お腹の中に赤ちゃんがいるの! だからおねがい! 殺さないでぇぇ!」
 その言葉を聞く私は、何の感慨も沸き起こす気も無ければ、実際に起こす事もない、何故なら妊娠していると言う事が重要な事であり、この女が妊娠しているからこそ殺す事になっているのだから。
 俗に食道楽の行き着く所の究極は、人肉食だと言う。はたしてそれが正しいかは不明だが、食道楽が行き着く一つの形態である事は確かのようだ。
 そんな食道楽達――自称美食家達を満足させる食材が、目の前で哀願を繰り返している女だったりする。
 この女と腹の中の子供を食べる美食家達も、最初の頃は単なる人肉を食べると言う事で満足していたらしいが、やがて食べる人肉の種類にこだわりだすようになって来る。
 男か女か、大人か子供か、白人か黒人か黄色人種か……様々な人間が、食材と饗された末に辿り着いたのが、今回の食材であったりする。
 白色人種……14歳……妊娠7ヶ月目……それらの条件に当てはまった人間を捜し当てるのは難しい、結局は白色人種で14歳になった娘を誘拐し、人工的に妊娠させた末、苦労重ねて作り上げた食材だ。
 快適な……それこそ高級ホテルの様な一室で、今までストレスを与える事無く快適に過ごさせ、日に三度だす食事も健康に気を使い、適度な運動をさせながら、病気や怪我などもしないようにと気をつけながら、今日と言う日まで飼育していた女だったが、やはり虫の報せと言うべきなのか、テーブルに食材として上がる日が来て、自分がお腹の子供と一緒に殺されるという事を悟ったようだ。

「いやっ! たすけて、おねがい! うあぁぁーー!」
 本能と言うのか、生命の危機を直感的に悟ったのであろう。飼育と言うか監禁していた場所から連れ出そうとした時、激しい抵抗をし始める……薬物を使えば簡単に大人しくさせる事も可能だが、これから美食家の面々に饗する大事な食材だ。薬物を使ったりしては、味を落としてしまう事になる。だからと言って強引に押さえつければ、大切な食材の肉体に傷が着いてしまい、同じく味が落ちてしまうだろうし、何よりも見た目が悪くなってしまう……だが大丈夫、この日のためにと前もって用意はしていた方法があるのだ。
 逃げようとする食材の腕を掴み、傷がつかないように注意しながら、素早く捻りあげる。
「ひぐぅ! いたっ……」
 捻り上げられた腕の痛みに苦痛の声を出そうとした女、だが最後までその声を出し切る事は出来ない、無防備に曝された女の首筋に、私は素早くそして的確な部位へと、手に持った竹串を刺す。その瞬間に食材である女は、四肢を弛緩させ、悲鳴を中断し倒れ込んだ。古くから伝わる針麻酔の技法を、暴れる食材に対して施したのである。
 四肢を弛緩させな横たわる食材は、身体を動かせない状態のまま、呻くように言葉を漏らし続ける。
「いや、おねがい……おねがい、助けて……せめて、赤ちゃんを産むまで……おねがい……」
 望まなく孕んだ子供であっても、愛すべき自分の子供……と言う所だろうか?
 首筋に打ち込んだ串の効力は、四肢を麻痺させ動きを封じているが、意識はキチンとある状態で、首が動く範囲でなら周囲の様子を見聞きする事もできれば、言葉と言うか大声で無ければ喋る事もできる。
 完全に意識を失わせる事も可能だが、今日の料理の手順と言うか趣向に置いては、最後の瞬間まで食材には、意識お感覚を保っていて貰わなければいけない――言うならば、魚の活造りとかと同じ様な物だ。
 哀願を続ける食材を抱き上げ、私は調理室へと向かい、調理の下準備をし始めた。

 一番長い部分で、二mはあろうかと言う長皿の上に下準備をした女を乗せる――下準備、まずは着ている服を全て脱がして全裸にした後で、身体の各部を念入りに洗い清めていく(同時に、この時に浣腸やカーテルを刺し込んで、体内の糞便や尿を完全に、そして綺麗に排出させ置く…もっとも二日程前から食事は与えず、栄養剤とドリンクの類しか与えてないので、量は少ない)そして、針麻酔で動けない女の肉体に包丁を入れて行く……
 研ぎ澄まされた包丁、関の孫六が鍛え上げた包丁……と言う訳ではないが、それなりに切れ味の良い、今までに何人もの人間を綺麗に切裂いた、手に馴染んでいる使いこなされた包丁、その包丁の切っ先を、女の胸の上にあてがう。
「ひぃ……うっううぅぅ……やめ……てぇ……やだぁぁ……」
 女の微かに動く頭部、そして見開かれた眼球が、あてがわれている包丁へと注がれ、恐怖と絶望が顔全体を包み込むように覆っていく、実はここが重要なポイントとなる。
 恐怖と絶望によって、女の脳味噌から大量に吐き出される脳内物質、これが味の決め手となって、女の肉体に絶妙の風味を醸し出して行くのだ。だから、出来るだけ時間をかけながら、女の肉体へと刃先を沈み込めて行く
「ぐぅぎぃぃ、あぎぃぁぁひぎゅぅぅ!」
 肉体は麻痺して動かなくても感覚はある。特に痛みの感覚は、鈍らない様に処置しており、逆に痛みを敏感に感じるようにしている。
 まずは丸く乳房を抉り出し、その柔らかな部分を薄く削ぎなら、刳り貫いた場所に綺麗に並べ、乳首の先端をポイントのして、飾りをデコレーションし、刺身用に仕上げて行く。
「ひぃぎぃ。ぎぃひぃぃ!」
 ビクビクと微かに動く肉体、そして漏れだす呻き声、それを観察しながら、腹部へと包丁を入れ、心臓や肺などといった生命維持に必要な重要器官を傷つけないようにしながら、すぐに致命傷とならない部位を切裂き、酒で綺麗に洗った後に一口大に切り刻み、食べ易いようにして、女が横たわっていおる大皿の周りに綺麗に飾り付ける。
「あぐぅ……わだじの……わだじぃのぉぉ……」
 周囲に並べられて行く自分の内臓、それを見ながら女は擦れた様に呻く、続いて手足の肉は薄く削ぎ、それを元の形に戻す。
 そしてこれが一番重要な部分……赤ん坊が納まっている子宮へと、私は包丁の切っ先を、子宮の中に納まっている胎児を傷つけないように、細心の注意を払いながら沈み込ませて行く
「あぐぅ、あがぁじゃん……よひぃでぇ、あかぢゃんは、だぁめぇぇ……」
 何度も言うようだが感覚はある。子宮へと入れられていく包丁の感覚、そして切裂かれて行く子宮と、取り出されようとする胎児、全力を込めて哀願を繰り返す女であったが、私の包丁は子宮を切裂き、蠢く胎児を取り出す。
「ほぉぎゃぁぁ―――!!」
 取り出された胎児が産声を上げる。妊娠7ヵ月目といえば、まだ胎児の体重は数百グラムでしかないが、運がよければ生きる事ができる場合もあるし、産声を上げた所で不思議でもない
「あっ、あがぁぁ……わだじぃのぉあが……ぢゃん、だずけであがちゃんだげぇ……」
 赤ん坊の産声が聞こえた時、動かない口で女は必死に哀願を再会するが、すでにこの胎児は、メニューの一つになっており、無駄な事でしかない、私はせめての慈悲として、ピクピク東国赤ん坊の首に手をかけ、軽く捻る……それでおしまいだった。そして取り出した胎児を、あらかじめ用意していた蒸し器で、軽く蒸し上げる。そして、胎児が蒸しあがる前に私は、最後の仕上げにかかる。
 取り出したノコギリ、それでゴリゴリと少女の頭部を、脳を傷つけない様にしながら、頭骨だけを切断して行く、そしてカパリと頭骨を外し、脳味噌をむき出しにさせた。そして、上手い具合に蒸しあがった胎児を女の腹へと戻した。


                                提供


 上から見れば、剥き出しとなった豆腐の様な脳味噌、綺麗に盛り付けられた乳房の刺身、内臓が抜き取られた空洞では、心臓が脈打ち、肺が収縮運動を繰り返しており、手足も綺麗に食べ易く切り刻まれている。そしていったん切り開かれ、そこから取り出され蒸しあげられた胎児が、再び納まっている子宮……すべては私の自信作であった。
 そんな完成した女を私は、今日のお客様の元へと運んで行き、出来映えを説明しながら、舌鼓を打ってもらう事となる。

 乳房の刺身が皿に取り分けられ食される、貴重な二つしかない乳首は、主賓の方へと分け与えられる。酒に洗われコリコリとした感触の内臓は、軽く火に炙った後で、手足の肉はシャブシャブ風にして、そして今回の目玉である胎児は、私に手で切り分けられ、お客様方の喝采を浴びる事となった。

 こうして一通りの食事が済んだ後、私は銀のスプーンを主賓の方へと差し出す。差し出された銀のスプーン、それを受け取った主賓のお客様は、まだ完全に死に切れていない女の脳味噌に、銀のスプーンを差し込んだ。
「あぽぉ!」
 奇妙な声を出し、半分瞳孔が開きかかっていた女の目が反転し、白目を向けたかと思うと、微かに残っていた命の火は完全に消え去る。
 そして、女の脳味噌が完全にお客様方の胃の中へと消えた時、晩餐会は終わった。

 お帰りなるお客様方……お褒めの言葉を頂く私に向って、次の晩餐会の料理は何かと御聞きになるお客様がいた。
「はい、次回の予定としましては、今回以上の珍しい珍味を予定しております……お楽しみにしてください」
 やや曖昧な返答、それでもお客様は次回の事を期待しながら、満足げに帰って行く……

 全てが終わった後、お客様が食べ残した女の後始末を終えた後、私は次回の料理の材料となる女の元へと足を運ぶ。


                                   
次回

 
 部屋のドアを軽くノックする。
 勢い良く開けられたドア、そしてその向こうには……
「パパ! お帰りなさい!」
「パパ! お帰りなさい!」
 元気いっぱいの二つの可愛らしい声
「ただいま、良い子にしていたかい、未緒、未穂」
「うん!」
「うん!」
 今年10歳になる、双子の娘……私の可愛い天使、そして次の食材……双子の女の子を使用した極上の料理……お客様は、次回も満足してくれるだろうと、私は可愛い双子の姿を見ながら、そう思った。




                                         おわり





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