ときめきメモリアル
【 狂的女科学者の苦悩 】
『 取引 』
十月、秋のけはいが少しずつ色濃くなり公園の草木を染めていく、そんな公園のベンチに男が二人座っている、一人は二十歳前後のどう見てもまともな仕事をしている風には見えないヤクザ風の男、もう一人は対照的とも言えるまだ少年の面影をのこしている十代半ばとおぼしき男、その二人がベンチに腰を下ろして何事か話しをしている。
「それじゃ何時もの薬、ハイラック系とダウンラック系を各10パック」
そう言いつつ少年が、何かが入っている紙包みをヤクザ風の男に手渡す。
「あいよ、それじゃ前回の売上の代金だ」
紙袋を手渡された男が、十枚単位で輪ゴムで縛り上げ筒状に丸めた万札を六個、少年に渡す。
少年は、渡された六個の札束のうち三個を相手の男に返しながら言う。
「また近いうちに撮影会を始める予定なんで、その前金を渡しておきますから、人数と場所を確保しといてください」
ヤクザ風の男の顔になんとも言えない、期待に満ちた下卑た笑みを浮き上がらせる。
「ほ〜久しぶりだな、たしかこの間、犯った女は強姦されている最中だってえのによ、冗談のように日本語と英語をチャンポンで叫んで助けを求めていやがった。まっ初物じゃなかったが、肉体は結構スケベで美味かったぜ、もっとも犯ってる最中に笑いを堪えるのに苦労したがな、それでこんど犯る女はどんな女なんだ?美人なんだろな?」
少年は胸ポケットから一枚の写真を取り出し男に渡す。
「好みだね〜、美人と言うよりも、学校の優等生てな感じだな、こう言ったら何だが、思わず人生をグチャグチャにぶち壊してやりたくなるような、かわい娘ちゃんだ、楽しみに待ってるぜ、撮影会の日をな」
男が写真をベロリと舐める、男の唾液が写真の中で優しげに微笑む少女……如月未緒と言う名前の少女に擦り付けられる。
「詳しい事は後で携帯に連絡を入れておく、人数は多いほど良いからな、その方がこの女にはお似合いだから」
少年がベンチから立ちあがり公園を出ていこうとする、その後姿に男が言う。
「了解!楽しみにしてるよ、早乙女の旦那」
男の言葉に早乙女好雄は、片手を上げ応え公園を出ていった。
『 欲望 』
早乙女好雄が公園を出たのは夕方近くだった、風の中に秋のけはいが感じられる、そんな風を感じながらポケットに手をつっこみ自宅への道をゆるゆると歩く好雄の前にいきなり黒塗りの車が停まる。
「・・・?」
停まった車の窓が開き中から女の声がする。
「さっさと乗りなさい、時間がもったいないわ」
車の中の女が窓から顔を出す。その女は紐緒 結奈であった、ただ学校での何時もの服装(セーラー服の上に白衣と言う姿)ではなく、黒を基調にした大人びた服装をしていた、どう見ても高校生には見えない、一流企業のバリバリのキャリアウーマンといった所だろうか?
「これはこれは紐緒様、何のご用事で?」
おどけたような口調で窓から顔を出している結奈に返事をする、そんな好雄の態度に結奈は、こめかみに手をやりうんざりした口調で言う。
「私は貴方のそうゆう所が好きじゃないのよ!まあ、いいわ用件は車の中で言うから、早く乗りなさい!」
肩をすくめて好雄は車のドアを開け助手席に腰を下ろそうとする、しかし完全に座り切らない内に結奈は車を急発進させる。
「おい、何をそんなに慌てているんだ、何かあったのか?」
シートベルトを絞めながら好雄が聞いてくる、さっきの奴らに流している薬の大半は彼女、紐緒 結奈が実験の副産物として精製した物であった。
好雄が結奈の実験の資金を提供する、その見返りに結奈が片手間に精製した薬を貰いあいつ等に売る、互いの利益を補い合う関係……それが二人の関係であった、またそれとは別に非合法な秘密を共有していると言う意識の元に、何時しか男と女の関係をも持つようにもなっていた。
「いいこと、一度しか言わないから良く聞きなさい、私が貴方と最後にしたのは何時?」
突然の質問に面食らったような顔をした好雄が聞き返す。
「おい、したって何をなんだよ」
結奈が車を乱暴に操りながら、うんざりしたような顔と口調、そして気のせいだろうか?若干の恥らいを含んだ口調で答える。
「あれよ、あれ!解らないの?これだから貴方と言う男は!」
「あれ、て何なんだよ、はっきり言わなきゃ解るわけないだろうが!」
車が何時の間にか停まっている、何処かホテルの地下駐車場のようだ、ハンドルに突っ伏した結奈が顔をやや赤らめて言う。
「SEXよ!夏休みの前、7月3日から私は貴方に抱かれてないのよ!女にだって性欲はあるのよ!」
好雄はまるで狐にでも摘まれたかのような顔をする、そして思う……まったく女という奴は……と
最初にこの女を抱いたのは何時だったろうか?ぼんやりとそんな事を考える、そんなに昔の事でもないのに思い出せない、所詮は俺にとってその程度の女でしかなかったからだ、俺は薬を得るために、この女は研究資金を得るためにお互い利用しあった。
そんな関係の筈であった、肉体関係を結んだのは単にお互いの肉欲の処理と、この女のSEXへの興味を満たす為の筈だったのに、何時の間にかこの女は、まるで俺を自分の恋人のように思っていいやがる。
好雄の顔に笑みが浮かぶ……ならばいいさ、今だけはせいぜい恋人気分に浸らしてやろう、利用価値が無くなるまでの間くらいわな、それ位の情けは俺にもある。
「上に部屋をとってるんだろ?」
好雄は結奈に聞く、結奈は顔を赤らめてうなずく、車から結奈の肩を抱きながら好雄が降りる、そして二人は肩を組んだままエレベーターの中に消えていく
『 交合 』
「はっあっ!くぁくくっ…そこっ!んあっいいぃんあっ!」
結奈の甘い吐息が洩れる、豪奢なベッドの中で二人の男女が身体を激しく絡ませていた。
好雄の手が結奈の前髪を乱暴に掻き上げる、何時もは髪の毛によりに隠されている右目が露になる、好雄はまぶたの上から右目に唇を優しく触れさせた。
「あっ、まって、だめ!それはよして、恥ずかしい……」
常に髪で右目を隠す、それは結奈が子供の頃から自分に架した戒めであった、自分は他の人間とは違う、私は選ばれた人間であり支配者となるべき人間なのだ!
何時頃からそう思っていたのかは憶えていないが、右目を隠すとゆう行為は他の愚かな人類(自分以外の全ての人々の事を指す)と自分を区別するための聖なる印であり、人類を支配する決意の表れでもあった。
顔を赤らめ恥かしがる結奈の剥き出しの素顔にキスの雨を降らせながら好雄が囁く
「結奈、こちらの方がかわいいよ…」
好雄の唇が結奈の唇を塞ぐ、そのまま舌を絡ませて激しく吸ってくる、結奈は朦朧となった意識の下で激しく好雄を求める。
「…んっあ!あっ…あぁぁーー!」
舌が絡みあいとろけるような快感が結奈をつつむ、そんな結奈の豊かな胸に好雄の手が伸び胸を捏ねるように揉み上げ刺激する、唇から離された舌が結奈の胸を執拗に責め始める、ぷくりと勃起した乳首に舌を這わせながら舌先で敏感な乳首を摘み上げ愛撫する、その度に結奈は淫らな声を上げ激しく身悶えをする。
「もっと、もっと来て!お願い、あっ…んんっーー!」
好雄の手が結奈の股間に伸び濡れ具合を確認する、秘所はグッショリと濡れており秘貝も大きく口を開け好雄を迎え入れる準備は出来上がっている、頃は良し…自分のペニスを結奈のヴァギナに突き入れようとした時、結奈が喘ぎながら淫らに陰を含ませて言う。
「まって、入れる前に…私がしてあげるから、いえ、させて…おねがい、おねがい!」
結奈の顔が好雄の股間に埋められる、結奈の紅い唇が大きく開かれ好雄の物を口一杯に含む、ただそれは竿の部分ではなく、玉袋の方であった。
「おっ、おい、そこは…」
慌てる好雄に玉袋を口の中に含んだまま結奈が目で応える、淫らとも淫靡とも言える視線が好雄を縛りつける、蛇に睨まれた蛙?そんな思いが一瞬脳裏をかすめる。
結奈の舌が袋の裏筋を舐める、蠢く舌が袋の中の玉を口の中で転がしてしゃぶる、玉袋を口の中に含み愛しげに舌を絡ませながらお気に入りの玩具のようにクチュクチュと弄ぶ、やがて玉袋がズルリと口から吐きだされる、唾液にまみれダラリと伸びた玉袋に結奈が頬ずりをして改めてペニスの先端を口に含む、チロチロと舌が尿道口を舐めて刺激する、そしてそのままペニスに舌を絡ませながら口一杯に頬ばり強く吸う、さらに浅く深くペニスを口の中で動かしながら舌を絡ませ啜る……ヂュバ、ヂュバという湿った音が部屋の中に隠微に響く……
「いいわ、きて!私をつらぬいて、貴方の物で…はやく!おねがい!」
咥えていたペニスから口をはなして結奈が言う、そんな結奈に好雄は体位を変えて結奈を犬のように四つん這いにさせ背後から貫こうとする。
「ちょっ、いや、こんな格好は、やめて!」
戸惑い気味に結奈が言う、そんな結奈の耳元に好雄は息を吹きかけながら囁く
「それなら、やめるかい?俺はどちらでもいいんだぜ、でもここは…」
結奈の耳を軽く噛みながら好雄の手が結奈の股間に伸び秘所をまさぐる、透明な液体が手に零れる、その液体を指の先にすくいとり結奈の口元に持っていき唇を割り口の中にさし込んで舌を嬲る。
「んっんあぁ!くふっ!」
結奈が経験した好雄とのSEXは結奈の女性上位による物がほとんどだった、SEXの最中に上になったり下になったりはしたものの基本的にはこの体位であったと言える、これは結奈のプライドの高さを如実に表していた。
自分が他の人間に組み伏せられてSEXをする、それは屈辱以外の何者でもなかった、たとえどのような条件下にあったとしても他者に対して支配者然としている事、それが結奈のプライドでありポリシーであったもだ、しかしそれは今や崩れ去ったと言える、最初はたんなるSEXに対する面白半分の実験のような物であった筈なのに、お互いの利益の為だけに仲間に……いや、利用しあう関係だった好雄と何時の間にか肉の交わりを含むようになる、一番初めに好雄に抱かれたのは何時か?結奈は憶えていない、ひょっとして抱かれたのではなくて自分が好雄を抱いたのかもしれない、何度身体を好雄と重ねたかそれも憶えていない、ただ気がついた時には身体が好雄の男を求めていた、自分で自分を慰める術は知っている、しかしそれだけでは納まらない何かが好雄を求めていた、そして今日、彼女自身が自ら好雄にSEXを求めたのだった。
口から指が引き抜かれる、そして好雄は結奈に再び聞く・・・
「やめてほしかい?それとも、このまま牝犬のように後ろから、二つの穴を剥き出しにしたまま犯されたいか、どっちがいい?」
結奈は応える、小さな、何時もの彼女からは想像も出来ないほど小さな弱々しい声で応える。
「…して……このままして、おねがい、はやく、はやくぅ!おねがい!」
結奈の白いなだらかな背中、そして豊かな尻の線を見下ろしながら好雄は言う。
「わかった、いまから入れてやるよ、良く味わうんだな俺の物をな!」
結奈の柔かな尻を二つに分けて、その境目にペニスをあてがう、腰を押さえつけて好雄が腰を突き出しペニスを結奈の身体の中に埋没させる、ただしペニスを埋没させた場所はヴァギナではなく、アナルであった。
「がぁっ!はあっ…そこ、ちが…う、ぬいて、いたい!ぎぎっぃぃ…」
好雄とはまで何度もSEXをした、しかしアナルSEXは初めての事であり、それは結奈のおよそ想像外の出来事であった。
知識としてはそのようなSEXの仕方があるという事は知っていた、しかし今まで好雄と交合わせていたSEXはごく普通のSEXであり、結奈が求め渇望していた交わりもそれである、激しい痛みがアナルを中心に結奈を襲う、その痛みの中で何か、そう何か小さな何かが激しい痛みの中から結奈をつらぬく、それは信じられないほどの快感と悦楽であった。
「違わないさ、そのうちにこっちの方が何倍も良くなるから、我慢して力を抜いて、ほら!もっと息を吐いてっ!」
好雄が腰を揺り動かす度にペニスがアナルに深々と突き刺さっていく、犬のように四つん這いにさせられた上、背後からアナルを犯される、結奈はこのような屈辱的な行為を心の中で認め受け入れている自分に気がつく、信じられなかった、他の人類を支配し君臨すると言うある意味では子供じみた、しかしそれ故に高いプライドを持つ自分がこのような行為を認め受け入れている、いや、それどころかこれ以上の屈辱的な行為を心の中で求めている自分にも気がつく…そして、その思いが口から洩れる。
「もっと、もっと、いじめ…て!」
言ってしまってから結奈は驚く、自分の口から出た言葉が信じられない
『なぜ、私がこんな言葉を……』
そう思う、しかしその反面、何か心の中の箍が外れた、そんな気がしている、身体の奥底の理性ではなく本能と言える部分から熱く猛々しい獣が身体のすべてを、理性をプライドを人が人として有り得るすべてを食らい尽くしながら身体の中に広がり満ちていくのが恐ろしいほどの悦楽と共に感じる事が出来た。
「いじめて欲しいのか、解ったよ、タップリといじめてやるよ、満足いくまでな!」
アナルにペニスを突き立てたまま結奈の白い尻を叩く、その度にアナルがギュッギュっと締まりペニスを締め付けてくる、ヴァギナに挿入したのとはまた別の快感が腰に集中する、射精しそうになるのを必死に堪えてアナルからペニスを引き抜く、ペニスに黄色いねっとりとした何かが少しこびりついている。
「あっ、抜かないで!もっと、もっと抉って、かきまわして!おねがい、欲しいの、貴方のがもっと!」
引き抜かれたペニスを追い求めるかのように結奈が四つん這いのまま好雄の方に、にじり寄る、そしてペニスを口に含み丹念に舐め始める、愛しむように口の廻りに、ペニスにこびりついていた自分自身の黄色い排泄物の名残が付着するのもかまわずに……
結奈の舌の動きに耐え切れずに好雄の精が口の中に放たれる、その精を一滴もこぼすまいとするかのように結奈は音を立ててペニスを啜り精を飲み干す。
「美味しい…ねぇ、もっと…たくさんちょうだい、お願いだから……」
汚物と精液に塗れた顔で笑う結奈を見た好雄の身体の中にゾクリとする物がを走る、恐怖に近い感情が心をわしづかみにする、その感情を振り払うかのように好雄は結奈を嬲る、結奈の尻を胸を身体のすべての部分を狂ったように乱暴に荒々しく責め苛む、尻は赤く腫れ上がり蚯蚓腫れが背中を縦横に走る、痛めつけられ傷をつけられる度に結奈は官能の艶声を出し悶え狂った。
やがて再びヴァギナに突き込まれたペニスが、それ自体が一つの生物のように蠢きながら熱い精を大量に結奈の身体の奥深くにぶち撒く、次の瞬間この世の物とは思えない程の声を出した結奈が絶頂に達し意識を飛ばした。
ベッドの中、煙草を咥えた好雄が皮肉っぽい表情を浮かべて天井を見上げる、傍らでシャワーを浴びてきた結奈が言う。
「煙草は身体に悪いのよ、よした方が良いわよ」
そんな結奈の方を見ながら好雄は言う
「なーに、構わないさ、煙草って奴は軽度の自殺願望を叶えてくれる、それに中度の殺人願望もな、今の俺には精神衛生上とても有意義なモノさ……」
「そうなの…」
「ああっ、そうだ…」
気だるい沈黙が二人を包む、咥えていた煙草が一本、灰になるだけの時間が過ぎる、再び結奈が口を開く
「知っている?」
「何を?」
「片桐彩子の事よ」
「片桐彩子?」
好雄の表情に変化はない、相変わらず皮肉な表情を浮かべ天井を見上げているだけだ。
「彼女、夏休みが始まってすぐに、何処かの男達に輪姦されたそうよ…」
「そうか、それがどうかしたのか?」
表情に変化はほとんどない、ただ口元に薄い笑いが形作られる、そんな好雄の横顔をウットリとしたような目で見ながら結奈が言う。
「貴方が手引きしたんでしょ?」
「ああ…あの連中に薬を捌いた時、良い女がいると片桐彩子の顔写真やデーターを渡して輪姦してやれとけしかけたからな、そうか……片桐彩子は輪姦されたか、お似合いだな、あのアバズレ女には」
あっさりと認めた、好雄が口元にはっきりとした笑みを浮かばせながら結奈を見て言う。
「ところでだ…なぜ、俺が手引きしたと解った?」
「女のカン…と言うのは嘘、だって彼女は、貴方のお友達の彼…イニシャルはD・Hだったかしら?彼とつきあっていたんでしょ?」
好雄の顔からスーと笑みが消える。
「それで?」
「そして、春先に転校していなくなったけど水泳特待生の清川 望も彼とつきあっていたわ、なぜ彼女は転校してしまったのかしら?いえ、本当に転校しただけかしら?」
好雄の顔から笑み…と言うより、表情が完全に消え去る、ス〜と、顔に薄い膜がかかったかのように変化する。
「あら、恐い顔ね、どちらが貴方の本当の顔なのかしら?、学校や彼の前で見せている、お調子者で陽気な三枚目の顔と?」
「なあ結奈…好奇心は猫を殺す…そんな、使い古されたことわざがあるのを知ってるか?それ以上、言わない方が長生き出来る……」
「ふふふっ、おー怖い!でも安心して私が好きなのは貴方、正確には貴方のペニスなの、貴方の大切な彼の…ぐっ!」
次の瞬間、好雄の手が蛇のように結奈の首に絡み付く、そして首を締め上げる、容赦のない力がこめられる、目を見開き舌を突き出して苦悶に満ちた顔の結奈に好雄が言う。
「どうやら、お前は猫らしいな、飛び切りに好奇心の強い……」
顔がどす黒く鬱血する、頭がガンガンと早鐘を打つかのようにい痛む、舌骨がメチメチと音を立てる、死へと続く扉が大きく開き何かが手招きをしているのが見えたような気がする…結奈は死と言う物をリアルに実感した……
喉の痛みで眼が覚める、視界が開けていく、自分が生きている事に軽い驚きを憶える。
「わたし、生きているのね……」
ただでさえハスキーボイスの結奈の声がさらにしゃがれ声になっている。
「殺して欲しかったか?」
「まだ遠慮しておくわ、でも……」
喉をさすりながら結奈が言う、好雄はそんな結奈を見ながら言う。
「でも?」
「何でもないわ、私は当分の間は死にたくないから…」
「なかなか利口だな、俺は帰るぞ、お前はどうするんだ?」
ノロノロと起き上がり、床に散らばっている衣服を拾い身につけながら結奈が言う
「帰るわ、次は何時会えるかしら?」
好雄は咥えた煙草に火を着けながら応える
「そんな先の事なんか、わからないな」
言ってから気がつく、昔見た映画の中でこの台詞を言っていた奴がいた事を、皮肉な笑みが顔を覆う、そしてもう一言話す。
「な〜に、何時でも会えるさ、生きていればな……」
『 歪 』
家の近くの公園まで結奈の運転する車で送ってもらう、そこで車から降り夜道を家に向かう、すでに夜の帳はすっかり落ちいる・・・家の玄関まで来た時に後ろからポンっと背中を叩かれる。
「お兄ちゃん」
元気いっぱいの声がする、妹の優美がニコニコと笑顔を顔じゅうに浮かべて立っている。
「なんだ、優美かこんな夜に何処に出歩いていたんだ」
好雄の表情が家や学校で見せる三枚目のお調子者、それでいて情報通の気のいい奴、そして妹に甘い兄貴の顔になる、そんな兄に優美は舌をペロンと出して、いたずらっ子のような表情で答える。
「えへへっ、デートだよ、お兄ちゃん」
好雄は大袈裟に驚いたような顔をする、優美も高一だ、好きな人の一人や二人いた所でおかしくない、しかしまだまだ子供と思っていた妹が何時の間にかデートをするようになるとは、兄としては複雑な思いがある、だから聞いて見る、誰とデートしたのかと?
「デートだって、本当か?信じられないな、誰となんだ?」
ホッペタを膨らませて優美が少し拗ねたように言う。
「ぶー、第一ヒント、お兄ちゃんの知っている人です」
俺の知っている奴?、誰だろう何人かの顔が思い浮かぶ。
「第二ヒント、イニシャルはD・Hです」
好雄の頭の中に一人の男の顔が像を結ぶ、そして叫ぶように言う。
「あの大バカか!」
「ひどいな〜でも、ピンポーン、大当たりでーす、今日ね優美、先輩と遊園地でデートをしてきたんだよ、それでね優美、先輩におんぶしてもらったんだよ」
屈託のない笑顔で優美が話す、それを聞いて好雄は複雑な思いにとらわれる、彼は間違いなく家族として優美を愛している、しかしある意味ではそれ以上に奴の事を……
「お兄ちゃん、どうしたの?恐い顔して、変だよお兄ちゃん……」
何時の間にか優美が顔を覗き込んでいる。
「んっ、何でもないよ、そうか、優美は奴の事が好きだったのか、初めて知ったな」
「うん、大好きだよ、お兄ちゃんと同じくらいに!」
優美の言葉に好雄は苦笑する、俺と同じくらい好きか……どうやら優美の好きと言うのは恋愛としての好きではなく、小さな子供が遊んでくれたり話しをしてくれる、大人の人に対する好きと言う意味であったようだ、安堵が心を満たし、そして感謝をする……家族を妹を地獄に突き落とさずにすむ事に
「そうか、よし兄ちゃんが応援しちゃる、かわいい妹のためだ、あの野郎もし優美を泣かしてみろ、親友でも勘弁せんからな」
そんな好雄の冗談混じりの口調に優美は笑いながら応える。
「うん、ありがとうお兄ちゃん、優美がんばるから、だからね、お兄ちゃんもがんばって恋人の一人でもつくらないとね」
「こらー!、大きなお世話じゃ!」
言ってやったとばかりに優美が笑いながら家の中に駆け込んでいく、玄関の前、一人残された好雄が苦笑を浮かべながら家に入っていく、それは何処にでもいる一般的な兄と妹のたわいのない会話であった。
自室、好雄は鏡に顔をうつす。
「歪んでいるな……」
ボソリと好雄はつぶやく、歪んでいる事は自覚している、自分の思いと自分の行動……
「歪んでいるな……」
もう一度、好雄は鏡の自分に向かいつぶやく、その歪みはすでに修正不可能になっていることにも気がついていた。この先にあるもの、それは破滅でしかない事も、自分は無論の事、何人もの他者を巻き込みながら、ポカリとあいた暗闇に突き進む未来、引き返す術は最早無く、ましてや引き返す意思も無く…
好雄は鏡にうつされた自分に対して皮肉な笑みを浮かべる、まるで自分を嘲るように……
了
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