『 妖異伝 夜叉姫之説 』


                                  序ノ壱


 ビルとビルの隙間、人一人がようやくに入り込める程度の狭い路地、そこを幾らか入った場所に突然として一坪ほどの空間が広がり、その空間の中央に古びたドアが一枚、地面から生える様にして建てられていた。
 高さは2mくらい、そして幅は80cmくらいと言う平均的なサイズの古びた木製のドア、そのシンプルだが頑丈そうな造りのドアには、真鍮製のドアノブが填め込まれ、人を誘うかのような鈍い光を放っている。
 それは深海魚が、自らが作り出す光により、餌となる獲物を誘い込む様を思い起こさせ、何とも言えない不気味さと同時に、妙に引き寄せられるような魅力を感じさせ、思わずそのドアノブを捻り、ドアの内側へと入りたくなる誘惑を感じさせていたが、常識的に考えれば、ドアノブに手をかけて開けたとしても、その先に何がある筈もなく、周囲と同じ空間が存在するだけであり、実際にそうであった。
 ただ、そのドアを開ける事無く、古びたドアに耳を押し当てて内部の様子を探り、ドアノブに備えられている鍵穴から内部を覗けば、その探る耳には艶なる女の喘ぎ声が、覗き見る目には、闇の向こうに仄かに浮かび上がる女体を映し出されたかも知れない……

 存在する筈のないドアの内側と言う空間……その紫の妖火に照らし出された薄闇の中で、二色の肌色が絡み合いながら交合っていた。
 一つの肌色は、恐ろしいまでに白く、死人の肌を連想させるような血の気を感じさせない青白き肌色……そして、もう一つは、死人思わせる青白き肌色とは対照的に、瑞々しいまでの生気を感じさせる紅潮している薄桃色の肌色……
 その二色の肌色が絡み合いながら互いを喰らいあうように、互いの乳房と……唇と……耳と……腹と……指先と……太腿と……秘部と……尻の穴と……互いの肉体の全て……それらに舌を這わせ合いながら、唇で食み……指先で弄り……鼻先を押し当て……勃起した乳首を擦り合わせ……充血した部位を重ね合わせ……粘液の糸を引きつつ……切れた粘液の糸を再びくっつけ……捏ね合わせながら……執拗なまでに交接を繰り返しながら、己と相手から溢れ出している、ありとあらゆる体液によって、全身をねっとりと絡ませあいながら快感を貪りあっていた。

「飽いた……」
 絡ませていた身体の動きを止め、不意に青白き肌の持ち主が呟く様に言う。
 青白き肌の持ち主……炎を連想させる赤い髪と金色の瞳を持ち、一対の角を持つ……鬼女……古より夜叉姫と呼ばれていた鬼女である。
 その夜叉姫が、己が肉体の下で、喘ぎながら悦楽の声を漏らしている、薄桃色の肌の娘を醒めた瞳で見下ろしながら呟きを思案する。


                                 序ノ弐


 彼女……鬼頭流符術師の次期継承者である鬼頭 蓮(きとう・れん)が、そのドアの前に立ったのは偶然ではない、このドアの内側から漏れ出す妖気に惹かれたのである。
 古くは平安時代にまで遡り、安倍 晴明に列なる符術師の家系、その千年にも及ぶ歴史と血筋の末に生まれ出で、幼き頃より血筋故の業として様々な妖異との闘いを繰り返して来た彼女だからこそ気がつき、同時に惹かれた艶しいまでの妖気……
 別の用事で、この都市に来た時に気がついた妖異……その妖気が漏れ出してくる場所を確めた末に辿り付いたのが、このドアの前であった。
 そのドアの前に立った時に感じた二つの感情……このドアを開けたいと言う欲望にも似た感覚、そして一刻早くこの場所から立ち去りたいと言う危機感……結局は、危機感を信じた彼女は、その場から立ち去る。
 立ち去る事を決めた判断が、間違いではない事を自覚しつつ、同時に言い知れぬ屈辱を感じる。鬼頭流符術師の次期継承者として葬り去ってきた妖異の数々、それは彼女にとって欠く事が出来ない自信であり、符術師としての実績であった……その自分が、妖異から逃げ出したと言う屈辱感、それが腹立たしくもプライドを傷付け、彼女にある行動を引き起こさせた。
 その行動……再び、あの場所へと赴き、ドアの内部に居るであろう妖異を討ち滅ぼすと言う事、それが傷付けられた自分のプライドを癒し、感じた屈辱感を雪ぐ唯一の手段であると……ただ彼女は、その様な表面的な感情の奥に潜む、もう一つの感情に気が付かなかった。あの場所へと惹かれる……恋慕にも似た感情を……

 ドアの前に立つ彼女は、躊躇う事無くドアの向こうに存在するであろう妖魔を滅するために、ドアを開けて中に踏み込むつもりであった。
 身を清め、呪式を裏面に縫いこんだ巫女服に身を包み、先祖より伝わる武法具を携え、印を結び、呪を唱え、万全の準備をした彼女はドアの内部に入って行く……しかし、これ以降に彼女の姿を見た者は、この世に誰も居なくなる。それどころか、彼女が存在していたという事すら、本家である鬼頭流に置いても何時の間にか忘れ去られ、その存在が極自然に抹消してしまった。
 彼女は、気がつくべきであったのだ、自信は驕りへと、実績は油断へと……その様な考えと行動が、如何様な結果を導き出すかと言う事を、心しているべきであった。
 彼女が、その事実を悟った時には、次と言うものは無く、全てが遅すぎ……その驕りと油断の報いを、その身体で思い知る事になったであった。


                                序ノ参


 凡そ殆どの者達が認識する事すら出来ぬ場所、その存在しない場所にて我は欲望を貪りつつ眠る……百を越す昔に、滅せられる寸前にまで追い詰められた末に、深手を負いながらも逃れこの地に流れて来た我が、創りあげた場所……衰弱した身を癒し、新たな力を得る為にたるために、我は獲物を選び出しては、この場所の誘い込み、糧にし続けた……
 選び出す獲物は年若き娘達……それも力を持つ娘達である。選ばれた年若き娘達が持ちえる力、それは才であり、技であり、秤であり……可能性と言う名の強き力を持つ娘達だけを選び出しては、我の糧とする。
 如何様にして力を持つ娘達を選び出すのか?方法は簡単であった。創り上げたこの場所、ほとんどの者達が、認識すら出来ないこの場所を感じることが出来る娘達の存在、それこそ我が必要としている力を持つ娘であるのだから……
 その場所で、我は過去の夢を見ながら待つ……かって糧にした娘達の断末魔の叫び、我を追い詰めし者達の声……快楽と不快の夢を見つつ、我はこの場所に気が付く娘が現れるのを待つ……そしてその娘が現れたのなら、我はその娘の糸を切る……
 糸……それは、その娘がこの世界で存在するために創り出した世界との交わりと言う名の糸……我はその糸を切っていく……一本……二本……三本……無数とも言える糸の繫がりを断ち切る。そして糸が断ち切られる度に、娘の存在は世界から消えて行く……そして全ての糸を切った瞬間に、娘の存在が世界から切り離される。そしてその瞬間に、我は娘をこの場所へと誘い込む、すでに世界との繋がりが完全に消え去った娘を探し出す者はいない……その娘は、すでにこの世界に存在していなかったのだから……
 まどろっこしい手段かも知れぬが、我が完全に力を取り戻す時の為……いや、昔以上の力を得る為にまでは、目立つ事は出来ぬ故に選び出した手段……
 ただし例外もある……その交わりの糸を切る事もなく、自らの意思で我の前に現れる娘もたまにいる。
 そして我の前に現れたこの娘は、凛とした声で言った。
「この世に仇なす。汝を滅する!」
 と…
 身の程を知らぬ愚か者ほど面白く楽しき者はいない、多少は己の力に自信を持っていたのであろう。娘は呪を唱え、呪符を放ち、我を縛ろうとしたが、そのような子供騙しにもならぬ技が、我に本当に効くと思っていたのであろうか?
 我は、それを避ける事すらせずに受止める。呪が我を縛ろうと絡みつくが、我の動きを一瞬たりとも留め置く事すれ出来ずに、虚に消えて行く。呪符が我を焼き尽くそうとするが、我に触れた先から塵と化して消え去って行く、我は娘に一歩一歩と近づいていく、美味なる獲物を見つけた獣の歓喜の笑みを相貌に浮べながら、如何様に娘を料理してくれようかと考えながら……
 我が近づく度に、その顔を強張らせる娘は、さすがに己の浅はかさを悟ったか、その場より身を翻し逃げ出そうとしたが、すでに我の結界は完全に閉じ、逃げ道は無い……わざわざ自ら出向いて来てくれた獲物を逃がすほどに、我は優しくも無ければ、阿呆でも無いのだ。
 逃道を閉じられたと悟った娘が、近づく我をキッと睨みつけ、されどその奥底の絶望の相を見せながら、最後の抵抗をし始める。わざわざ自ら我の領域に飛び込んできた娘だ、そうでなければ面白くない……我は満足の笑みを満面にたたえながら、娘に一歩ずつ近寄って行った。
 娘が、呪を唱え自らを中心にした陣を素早く描きあげる。如何様な種類の陣であるかは容易に想像できる、その陣の中にいる限りは安全であると思っているのであろう。
 確かに、その陣の中にいる娘に触れようと腕を伸ばすと、激しき抵抗と我を焼き焦がす力を感じ、なかなかに強き陣と言える。とは言え何時までもこの陣を維持するのは、不可能である事も明白であった。
 待てばよいのである。娘の力が尽きるまで……しかし、それは面白くなかった。我ほどの者が、このような娘の敷いた陣に手出しができぬと言う事がである。
だから我は強引に、娘が作り上げた陣を突き破る事にした。
 陣の中央で、我を見る娘に我は笑みを浮かべる……そして陣の中にいる娘へと、無防備な左腕を伸ばしていく、伸ばした指先が陣の結界に触れ、火花を散らし我の肉を焼くのがわかる。腕に走る激痛と言って良い感覚、そして我の肉が焼け爛れて行く臭い、それを意に介せずに我は陣の中に、さらに腕を伸ばし侵入させていく、皮膚と肉が裂け血が噴出す。シューシューと音をたてながら、我の伸ばした左腕が崩壊していく、苦痛が我を蝕んでいく中、爛れた腕が陣の中にいる娘に近づいて行く、陣の中にいる娘は驚愕の表情を浮かべ、自らが作り上げた陣の内部に侵入してくる、醜く焼け爛れ裂けた我の左腕を凝視している。
 陣の中に侵入した、焼け爛れた指先が娘の髪に触れる。我はその髪を指先に引っ掛け巻き込むと、その髪を掴み娘を陣の外に引き擦り出す。
 無様に床に跪く娘を見下ろしながら、我は笑みを浮べ思案する、如何様にこの娘を糧としてくれようかと…

 絶対の自信を持っていた防御の陣であった。
 とにかく時間を稼いで、この場を何とか乗り切り、隙を見つけて脱出する……その為に、防御の陣を張り巡らしたのだが、その防御の陣は、強引に妖異に打ち破られ陣の外に引きずり出されてしまった。
 最後の頼りとして造り上げた陣を、圧倒的な力により破りさられた今は、抗う気力すらすでに無くなっている……ただ、目の前に立つ妖鬼を見上げる事しかできないでいた。

 陣を破るために焼け爛れた左腕を、娘の方に突き出す……焼け爛れた腕を無傷な右手で掴むと、一気に引き千切る。上腕の途中辺りから引き千切られた左腕が、ボタリと娘の前に投げ出される。
「ひっ!」
 千切られた左腕が、シューシューと音を立てながら消えて行く……その消えていく腕を見ながら、夜叉姫が言葉を放つ
「なかなかに面白い事をしてくれる。新たな腕が出までの暫しの時間、御主の相手は、後ろの者達にに任せるとしよう……」
 夜叉姫の視線が、娘を突き抜けて、その背後に向けられる。娘は振り返らない……振り返らなくても理解してしまう。背後から聞こえる湿った物音、這いずるような蠢きの音、生臭い臭気、そして背後から頭越しに目の前に突き出された触手状の物体……ヌラヌラと黒光りする紐状の部分と、薄赤く充血したような先端部。それらが揺ら揺らと宙に蠢めいている。
「御主が傷つけた、我の腕の代役じゃ、しばしの間、御相手をしてもらおうかのう?」
「いやぁぁーーーー!!」
 背後から娘の身体に、十数本の触手が絡みつき引き寄せていく、引き寄せられながら娘は、自分を引き寄せている物の正体を見る。
 無数とも言える赤い光点の群れがそこにあった……
 紅い光点、それは米俵のように太い胴体を持つ巨大な芋虫のような生物の群れであり、その長い身体を引きずりながら、丸く開いた開口部から、男性器を思わせる何本もの触手状の器官を吐き出し、娘を絡めとり、自分達の方に引き寄せようとしているのである。。
「やだぁ!こないで、こないでぇ!」
 ビュッ!
 さらに数本の触手が素早い動きで、娘の身体を更に戒めて行く
「やっ! いやぁぁーーー!」
 触手が緋袴の中に潜り込んで来る。そして娘の股の間で蠢き、敏感な部分を弄り始める。
 おぞましい感触、ネトネトとした生暖かいモノが、股の間でうねり、太股に巻きつき、尻に粘液を粘つかせ、恥毛の上を移動する。
「あっ!あっあぁぁ…ぐぅぅん!」
 歯を食いしばり、漏れ出しそうになる声を必死に耐える。
 まるで、その表情を見つめる様に何本もの触手が、白衣の上で揺らめく。その先端部からは半透明の粘液が垂れ、白衣の上に滴り落ちた。生臭い臭いが鼻を突く。白衣の上に滴り落ちた粘液が、布地を染み透り、肌に白衣を張り付かせる。
「あ…あぁぁぁ、やだ……やだっ! いやぁぁーー!! 」
 まるで、値踏みするかの様に揺らめいていた触手が、ゆっくりと白衣に伸びてくる。
「うっ…うっっ…」
 下半身を嬲っている触手の不気味な感触……それでも、その触手の動きは、幸か不幸か見えないでいる。しかし眼前で揺らめいている触手は、まるで娘の恐怖に歪む表情を楽しむかの様に、半透明の粘液を滴らせながら迫り、一際太い触手が白衣の合わせ目から内側に潜り込んでいく。
「あうっ!」
 白衣の内側に潜り込んだ触手が、粘つく粘液を吐き出しながら蠢き、白衣の布と素肌の間を触手が這い回り続ける……ズブズブと白衣の内側に潜り込んでいく触手、乳房に粘液を擦り付け、乳首の位置を確認するかの様に巻きつき、腋の下に潜り込み、背中に回りこみ、素肌の軟らかさを味わうかの様に縦横に蠢きまわる。
 這い回る触手の動きが、白衣を透しても見て取れる……ボコボコと筋状に盛り上がる白衣、その下では触手が娘の素肌を嬲っているのである。
 白衣の合わせ目……袖口……背の合わせ目……僅かな白衣の隙間に、何本もの触手が潜り込みはじめて行く……
「ひっ、ひぃぃぃーー」
 白衣の下と肌の上、身体に巻きつき、絡みつき、擂り付き、蠢き……白衣を身に着けている上半身のみではなく、緋袴を着けている下半身も同じように何本もの触手がウジョウジョと這い回っていた。
 やがて触手が、我慢が出来ないとでも言うように、白衣を引き剥がし始める。
 白衣の内側で蠢いている触手が弄んでいた、白く豊満な乳房が内側から押し広げられた白衣から、溢れ出す様にブルンと剥き出しになり揺れ動く、その乳房に何本もの触手が、更に伸びて行き、弄ぶ様に責めさいなみながら、胸の谷間に捻じ込まれる触手が、濁った粘液を娘の顔面に吐き出す。
「あっ!」
 顔面に吐き出された粘液、熱い……そう感じた粘液が、叫び声を出した拍子に唇から染み込んでくる。微かな塩辛さと、生臭い味が口の中に広がってくる不快感……搾り上げられた乳房がブルブルと震え弄ばれ、嬲られ続けて行く
 何本……いや何十本もの触手が、娘の身体めがけて粘液を吐き出し始める。身に着けている白衣も緋袴も、すでに粘液でドロドロとなり、肌に張りついている。

 不意に娘を捉え縛めていた触手の力が緩む、娘の身体に無数に巻きついていた触手が、化物達の方に引き戻され、そのまま化け物たちが闇の奥底にへと逃げるように消えていく
 ベチャリと、崩れ落ちる様にして、その場に座りこむ娘の白衣と緋袴に染みこんだ粘液が、湿った音を立てる。粘液によりドロドロに汚された白衣と緋袴、そして大きく肌蹴られた胸元からは、白くたわわな乳房が剥き出しになっている。
「……ん…何故?…」
 肌蹴られた胸元を辛うじて抑え、溢れ出した乳房を両手で隠しながら、娘は考える……何故急に、身体を縛め弄んでいた怪物達の触手が、解かれたのか?
 その理由は、すぐにわかった。
「腕の方は治ったようじゃ…さて、我が直々に御相手をしてよろうではないか…のう?」
 死刑を宣告するかのような、夜叉姫の隠微な声が耳に入って来たからであった。

 なかなかに面白い余興であった。地の底の潜む妖蛆の群れに散々に嬲られ、ドロドロになった娘を、完全に元に戻った腕で我は、背後の壁に押付ける。
「あひっ!」
 押しつけられた娘が吐き出す、悲鳴混じりの声を聞きながら、我は娘を壁に押し付けた娘の下腹部へ腕を伸ばして行く
「やっ! いやぁぁーーー!」
 我の腕が緋袴の中に潜り込んで行く、そして娘の股の間で掌を嬲るように蠢かせながら、敏感な部分を弄る。
 すでに妖蛆の粘液によりドロドロになっている股間……娘の身体に、おぞましい感触が走る。艶かしい生物のように夜叉姫の指先が、娘の股の間で蠢き、さらにもう片方の腕が娘の太股に触れ、尻にへと進んでいきながら、股間を嬲っている掌は、ネチョネチョと恥毛の上を移動していく。
「あっ!あっあぁぁ…ぐぅぅん!」
 娘は、歯を食いしばり、漏れ出しそうになる声を必死に耐える。
 その表情を見つめる夜叉姫の口元から半透明の唾液が、驚くほど大量に溢れ出し、娘の口元に滴り落ちていく。
「うぐぅぅ…げうっ…ぁぁぁ…やだ……やだっ…げほっ!」
 滑りとした唾液が、娘の口に流れ込み、体内へと流れ落ちていく……そのおぞましい感触は娘に、悲痛な叫び声が上げさせる。

 その娘は、上半身の白衣も、下半身の緋袴も、足袋すらも、剥ぎ取られた娘が、産まれたままの姿で鬼に嬲られている。
 燃え盛る炎を連想させる赤い髪と金色の瞳を持ち、一対の角を持つ……鬼、その鬼の姿は、少なくとも女であった。
 肌蹴た上半身には、豊かな二つの膨らみがあり、その膨らみを娘の身体の上に乗せ、美しいが血の気ない白い顔の中、その部分……異様なまでに紅い唇を娘の身体の上に這わせている。乳房を頬張り、股間を舐めあげながら、その肉体の味を確かめるかのように、身体中を舐りまわしている。
「うっ、くふぅ……はぁー、はぁぅぅ……」
 夜叉姫の舌が身体の敏感な箇所を刺激する度に娘は、喘ぎ声を漏らし身体をビクビクと震わせている。
 娘の反応を聴いている夜叉姫の表情に、面白いものを見つけ出した子供のような、無邪気でいて、やはり子供が浮かべる、どこか残酷な笑みが浮かび上がる。
 立ち上がった夜叉姫が、喜悦により身動きの取れなくなり、倒れ伏したままの娘を見下ろしながら、下半身を覆っていた紫の腰布を解いて、足元に落とす。
 大柄だが、均整の取れた女体のシルエット、重たそうでありながら張りのある二つの乳房、豊かな曲線を見せている腹から腰へのライン……そして、股間にそそり立つ異形の影が、ビクビクと蠢いていた。
 娘の両足を抱え込み、夜叉姫が己の股間のそそり立つ物……それは、ペニスと言って差し支えのない代物であった……を、娘の濡れ濡っている股間に荒々しく突きたてる!
「ぎゃぁぁぁーーー!!」
 半ば漂うような快感の中にいた娘が、激しい痛みと共に現実に引き戻される。
 いま自分は、魔物の餌食となっているだ、身体を引き裂かれる激しい苦痛が、その事実を突きつけてくる。
「ひぎぃぃーーやめてぇぇーーー!いだい!いだぁぁぁーーいぃぃぃーーー!」
 その悲鳴を聞きながら、夜叉姫は満足気な表情を浮かべ、さらに激しく娘の股間に突きたてていく、鬼である夜叉姫の力は、泣き叫び暴れまわる娘を容易に押さえ込み、その抵抗を楽しむ。
「いぃぃぃーー!!だぁぁめぇぇーーー裂ける!裂けてくぅぅーーー!」
 娘は、己の肉体にペニスを受け入れるのは初めてであった。散々に嬲られて、濡れ濡っていたとはいえ、激しい苦痛を味わうのは当然の事といえる。ただし、初めてでなくても、夜叉姫の巨大なペニスは、娘の股間を充分に引き裂いたことは間違いなかったが……
「ああ…はぁぁ…その声は、とてもよい…楽しませてくれるのぉぉ…」
 激痛に暴れまわる娘を貫いたまま、夜叉姫は娘を抱えて立ち上がり呟く様に言う。
 娘の両腕が夜叉姫の身体を叩く、半ば狂気に歪んだ顔が夜叉姫を見据える。
「いぎゃぁぁーーい!おかぁぁーーさん!おかぁぁーーさん!たすけえてぇぇーーー!いたい!いたいよぉぉぉーー!!」
 すでに鬼頭流符術師の次期継承者としてのプライドは、粉々に砕け散っていた……ただの無力な娘へと変じ、この激しい苦痛を紛らわせる為だけに、泣き叫び助けを求め続けた。


                                序ノ終


 夜叉姫が、己が肉体の下で、喘ぎながら悦楽の声を漏らしている、薄桃色の肌の娘を醒めた瞳で見下ろしながら思案する。
 我を滅すると大言壮語しておきながら、赤子の手をひねるよりも簡単に我に屈した愚かなる娘……我に嬲られ、甚振られ、犯され末に、脅え、泣叫び、哀願の声を出し、苦痛にのた打ち回った阿呆な娘……我は、その娘を思う存分に弄る。破瓜の苦痛を与えながら、女の喜びを肉体に刻みこむ、苦痛に歪む顔が喜悦であった……その苦痛が快感に変わっていく様が愉悦であった……初めて、この娘の純潔を奪い去った時より、何度この娘を抱いてであろうか?
 喜悦であったから抱いた……愉快であったから抱いた……快感であったから抱いた……しかし………

「飽いた…」
 再び、夜叉姫は呟く……今度は、自分にではなく娘に対して言うように……
 今まで、夜叉姫の責めにより快感の中に漂っていた娘の意識が、夜叉姫の言葉により快楽の園より引き戻され、そして理解する……自分の運命が決した事を
「い、いや……やだ!夜叉姫様……たすけて、やぁぁ……」
 娘は悟る。最後の時が来たのだと……信じたくなかった。熱く燃えていた肉体は、死に対する恐怖により瞬時に冷えていき、股間からは今まで溢れ出させていた愛液とは別の熱い液体が漏れ出し、娘の下半身を濡らしていく……
 蛇に睨まれた蛙が身動きをすることもなく、蛇に飲み込まれていくように娘は哀願の声を出しながらも、その場から逃げ出す事が出来なかった。
 もっとも、その場より逃げ出せたとしても、ここは夜叉姫が作り上げた異空間であり、人が逃げ出せる場所でもなかったが
「そうして脅えておくれ、御主が我に与えてくれる最後の楽しみなのだから……」
 夜叉姫の薄く血の気のない唇が大きく開かれ、開け放たれた口の中に白く鋭い二本の犬歯が見て取れる。紅く血の色を連想させる舌が、口の中で蠢き溢れ出した涎を娘のふくよかな乳房に垂らして行く……それは性欲ではなく、食欲により溢れ出した涎であった。
 夜叉姫の掌が娘の乳房を鷲づかみする。
「ひっ!」
 鋭い夜叉姫の爪が、ギリギリと乳房に食い込んで行く
「いっ!痛い!…やめてください、夜叉姫様…お願いしますぅぅーーー!」
 娘の哀願の言葉を聞く夜叉姫の金色の双眸が歓喜により薄く光る。ブツリッ!乳房に食い込んでいた爪が皮膚を突き破り、肉に食いこみ血が流れでる。
「ひぃぁあうっぁぁーー!」
 苦痛の悲鳴を上げ、のたうつ娘を満足げに見ながら、さらに深く爪を乳房の中に突き入れ、流れ出る鮮血によって乳房を紅く染め上げて行く……そして、夜叉姫は流れでた血で紅く染まる乳房から掌を離す。
 掌のこびりついた娘の血、その血を味わうかの様に紅い舌で舐め上げる夜叉姫の唇が紅く染まっていく、そして紅く染まった乳房に、夜叉姫の唇が近づき、血に染まった紅い乳房の上を舌が流れでた血を舐めとるように蠢き、生血を啜りとる。
「うっ…ぐぅぅ…ひぐぅぅ…」
 それは恐怖、死に対する恐怖に押し潰されている娘の口からは、もはや押し殺した様な呻き声が漏れるのみになっている。
 夜叉姫の掌が、再び胸の上に置かれる。そして、胸に爪が食い込んでいく……ブツリ!ズブリ!メキョリ!……皮膚を突破り、胸に置かれた指先が娘の体内にへとめり込んで行く……
「ぐぎぃぃぁぁぁーーー!!いぃぃがぁぁぁーーーーー」
 文字どおり、体を引裂かれる激痛に、暴れようともがく娘の体は、夜叉姫の鬼人の力により完全に押さえ込まれており、大声で無残な悲鳴を搾り出すことしか出来ない
「ああ……とても好い声だねぇ……もっと聞かせておくれよ、おまえの命の声を……それが消えて行く最後の瞬間を……」
 グイッ!とさらに夜叉姫の腕が、娘の身体の奥深くに捻じ込まれる。
「ぐぼぁぁ…ごばぁんな…ゆる…だ…ず…」
 ゴボゴボと娘の口から溢れ出す血の泡が声を塞ぎ、悲鳴ですらなく、もはや意味のなさない濁音のみが、娘の口から吐き出されていく
 ゴギィキリィィ!と言う骨が折れる音がする。ミキメギィリミギョリィ!と言う、何かを引き剥がすかのような音がする……娘の胸に捻じ込まれていた夜叉姫の掌が引き抜かれ、そして夜叉姫の掌には、血に塗れた固まり……ビクビクと蠢く娘の心臓が握りこまれていた。
 血が滴っている心臓……しかし、太い血管はまだ断ち切られておらず、引きずり出された心臓も鼓動を止めずに血液を循環させている。
「うぁ…あつ…ぐぅぶぅ…」
 引きずり出された心臓が、瀕死と言うよりは、まだ死に切れていない娘の前に曝される。眼の前に曝されたものが何であるか、娘は理解できない、しかし本能が告げる。それが自分の命の素である事を、だから娘は、見開かれた娘の目が哀願する。
『お願い…それを、元の場所に戻して…』…と
 しかし夜叉姫は笑みを浮かべ……そして、娘の目の前で心臓をグチャリ!と、握り潰した。
『ゴボリッ!』
 大量の血を吐き出し、絶望を顔に貼り付けて娘の命の灯火が消え去っていく……まだ微かな蠢きを感じられる握り潰した心臓から大量に血が夜叉姫の白い肌に降りかかり、その降りかかった血が、乾いた地に落ちた雨粒のように肌に染み込み、吸収されていく、そして夜叉姫の食事が始まる。
 握り潰した心臓を頬張り、ポカリと空いた心臓が収められていた空間に顔を近づけ、その空けられた胸に溜まった血を啜り始める……ゴキュルと喉を鳴らし血をすすり、微かな甘味を持つ命の赤い水を、己の喉へと流し込んで行く……ゴキリと足を引き千切り、太腿に喰らいつき柔らかな肉を租借して飲む込む、腹を裂き、溢れ出した臓物を貪っていく……次々にと、夜叉姫の体内に消え去っていく娘の肉体……死人を思わせる夜叉姫の白い肌が、娘を喰らっていくに従い、ほんのりと桃色に染まっていく……
 ゴギリ!と言う骨を噛砕く音、ゾブリ!と言う肉に歯を立てて食らう音、ジュルリ!と言う臓物を啜る音、ゴキュリ!と言う血を飲み降す音……やがて、娘の身体は、頭部だけを残してすべて夜叉姫の身体の中に納まる。
「たのしかったねぇ……いや、美味しかったかねぇ……」
 夜叉姫がうっとりとした口調で最後の瞬間を、その恐怖と絶望の表情を刻み込んだままの娘の頭部を金色の瞳で見つめて言う。
「ああ…そうだった…」
 夜叉姫は思い出したように言う。
「おまえの名前を聞くのを忘れていたよ。次の娘の時は、飽きが来る前に名前を聞いとかなきゃね……ククク……」
 夜叉姫が立ち上がり、髪の毛を掴み頭部をぶら下げて、奥の闇の中に消えていく……
「今度は、もっと生きのいい娘がいいね。しつこい位に往生際の悪い娘が、最後まで抵抗を続けてくれる娘が、クククククク……」
 誰に語ると言うわけでもなく夜叉姫は、言葉を漏らす。いま喰らった娘の事などは、すでに忘れ去っている。次に、犯し!嬲り!喰らう娘の事のみを考えながら、闇が夜叉姫を隠していく……あとには、わずかに喰い残された娘の血と肉と骨片が残されたが、それも滲み出すように現れた得体の知れない何かが、舐めるように喰らい!啜り!舐めとり!綺麗に、骨すら残さずに始末をつける。
 そして、娘の存在は、この世界から完全に消え去り、忘れ去られ……まるで意味の無いものと化して消滅した。



                                             序ノ章 了



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