『 妖異伝 夜叉姫之説 外伝〜弐 』


                             
蓮と鏡花



                                    



 某所にある鬼頭流符術の本院、その本院の一角に設けられた部屋にて、一人の少女が椅子に座って送られて来たばかりの報告書に目を通していた。
 送られて来た報告書には、鬼の存在の兆候を示すと思われる事柄が、同時に送られて来た資料と共に示されている。
 それらの報告書と資料に、一通り目を通した少女――鬼頭流符術士の筆頭巫女にして、次期当主継承者と目される鬼頭蓮は、読み終えた報告書を机の上に置くと、眼を閉じて暫し思案をする。
 ……いま読んだ報告書からして、鬼が存在している事は確実であろう……だが鬼の討伐と封印に誰を行かせるかが問題であった。鬼の活動が活発化し始めている近年、鬼を討伐し同時に封印する符術巫女の人数が慢性的に不足していると言う問題、実際に符術巫女の主だった者は、他所にて出現した鬼の討伐と封印に出かけており、いま読んだ報告書の鬼を相手に出来る程の腕を持つと思われる符術巫女は、すぐに手配する事は無理であった。
「私が直接に出向く事が出来れば、いいのだけど……」
 口から漏れ出す愚痴は、言っても仕方が無い事……確かに身が空いている自分が、討伐と封印にが出向くという事が、最善だろうと思うが、拙い事に明日より本院で執り行われる祭事には、次期当主継承者としての役割から見て、自分が出ないわけには行かない……だが報告書を読む限り、犠牲者は既に出ていると推定されており、事態は急を要する事のように見て取れる。
 どうするべきか――暫しの思案の末に、机の上に置かれているインターフォンへと手を伸ばし、スイッチを入れる。
「彩夏、すまないけど鏡花を呼んでちょうだい、大事な仕事を御願いしなければいけないから……」
 隣の部屋に待機している自分付きの巫女である符術巫女見習いの彩香に、伝言を言付ける。
「鏡花しかいないわね……」
 スイッチを切った後、独り言のように呼び出した者の名を呟く……符術巫女見習いの鏡花、既に何度かは、私の補助として鬼の討伐と封印に同行している。本格的な鬼の討伐や封印を一人で任せるには時期尚早であり不安があるが、現地に赴いて鬼の動向を探る事位ならば、充分に任務をこなす事が出来る実力はあるだろう。
 潜在的な符術巫女としての能力は、トップクラスと言って良い娘であり、これで更なる経験さえ積む事が出来れば、今後良き符術巫女として活躍してくれるであろうし、自分の片腕として頼む事も出来る存在だと思っている。
「でもなぁ〜……」
 とここまで考えた蓮は、苦笑というか、なんと表現したらよいのか、困ったような表情を浮かべ、両手で頭を抱え込んで机に突っ伏す。
「鏡花も、あれさえなければと言うか……もう少しねぇ〜……」
 そう言っている蓮の顔が、妙な感じでほんのりと赤く染まったのを見ている者は、残念ながら誰もいなかった。


                                  鏡花


『鏡花は可愛いから、ゴシック・ファッションとか……そんな雰囲気の服装が似合うと思うわね』
 わたしの憧れ……わたしの全て……わたし以上のわたしにとっての存在……そんな存在である蓮様が似合うと言ってくれたゴシック・ファッション……巫女装束風にアレンジした衣装に身を包み、私は自室のベッドの上に横たわる。
 そして小さな声で呟く……
「鏡花……かわいいわよ……」
 私の口から漏れだす声は、私の言葉ではなくて、愛しい人の言葉……それは蓮様が、私に言ってくれるであろう言葉……
 そしてゴス服の上から、胸の上へと手をゆっくりと這わせて行く……
 ゴス服を閉じあわせ繋ぎとめる紐が解かれ、胸の部分が大きく開け広げられていく……
 私の体の上を這う手は、私の手ではなくて、愛しい人の手……それは蓮様が、私の体に這わせてくれる手……
 広げられ、露になった胸……その柔らかな膨らみに手が触れ、優しく乳首を摘まみ上げ、柔らかく揉む
「あうっ!」
 乳首に走る電流と漏れ出す私の声、その声に反応して摘ままれた乳首が硬くなって行く……
 半開きとなった唇、その半開きの口からチロリと飛び出してくる舌先、口の中に溜まる唾液を飲み込みながら、小さな喘ぎ声を私は漏らす。
「蓮様……好きです……大好きです……お慕いしております……愛しております……蓮様と一つになりたいです……」
 大きく開いたゴス服から、溢れ出すように剥き出しとなった乳房を、手で優しく揉み上げながら、同時に強く嬲る。
「蓮様……」
 激しくなって行く手の動き、そして下半身の方へと手は移動して行く……

 ドロワーズが引き降ろされ、足の途中で止まる。
 ドロワーズの下に着けている下着にも指先がかかり、そしてゆっくりと下ろされて行く……
 外の空気に触れた股間は、既に濡れ始めていた。
 下ろした下着にも、その濡れた染みが着いてしまっているだろう。
 ぬちゃりとした感触、ぬるりとした感触、ねばつくような感触……それらが混ぜ合わされた奇妙な感覚……それを感じながら、私は指先を股間へと這わせる。
「くっ……ふぅあっ!」
 股間を指先で弄る。そして染み出す様に濡れてくる股間の滑りを指先に感じ取り、充分に濡れた事を確認した後に、指の一本を濡れた場所へと、そっと入れてみる。
「ひぃうっ!」
 指先に感じる熱い感触、そして指先が触れる部分に湧き上がる快感、ビクビクと体が揺れ動き、剥き出しとなっている乳房が、揺れる体に合わせて震えるように動きまわる。
「あうっ! くぅひぃっ!!」
 喘ぎ声が口から漏れ出す……その漏れ出す声を必死に抑えながら、指先を動かしながら股間に広がって行く快感をは貪る。
「あっ! ああぁぁっ! ひぅっ!」
 頭の中が白くなる……その白くなって行く先に人の姿が見えてくる。
「れん……さま……」
 私は愛しい人の名を呼び……そして……はてた。

 乱れた服装のまま、私はベッドの上に寝転がり、余韻に浸る……
 何度、この様な事をしたろうか……
 小さな頃から、生まれ持った力ゆえに周囲の人達から遠ざけられた私……両親も例外ではなく、生まれたばかりの妹のみを可愛がっていた。
 そんな私を引き取ったのは、鬼頭流と言う符術を伝える人達の集団だった。
 そして私は、あの方に出会う……
 鬼頭流符術の次期当主継承者と目されている鬼頭蓮……さま
 誰からも恐れられ、忌み嫌われていた私……そんな私の手を優しく握り締めてくれ、優しい言葉を御かけくださった蓮様……
 今でもその声が耳の奥底に響いている……涼やかでいながら、優しく暖かな声……私は、その瞬間から蓮様の虜となってしまった。
 私の想いの全て……募る想いは何時しか男女を越えた恋愛の対象となっていた。
 そして私は、何時しか蓮様の事を想い、毎夜の様にこのような淫らな行為に浸るようになる……
 その他にも、密かに蓮様の自室の屋根裏に忍び込み、蓮様の寝姿を天井裏から一晩中見ていた事もある
 いけない事だと理解している……蓮様を汚す行為だと自覚している……だけど、どうしても止める事が出来ない、いや! それどころか募る想いは、ますます激しくなって行き、もはや抑える事が出来なくなっている。 
 私は蓮様を自分の物にしようと考えている……蓮様の柔らかな御髪……白く染み一つ無い肌……赤く濡れているような唇……白い撫でやかな首筋……盗み見た事のある白くふくよかな乳房と小さな乳首……細く引き締まったお腹と少しだけ出ているお臍……そして淡い茂みに隠された……まだ見たことの無い部分を想像する……どのような形であろうか……私のアノ部分のように奇妙な形ではなく……清浄で清らかであろうアノ部分……
 既に、蓮様を私の物にし……私が蓮様の物になり……私は蓮様と一つになる……その準備もし始めてしまっている……いや! 既に準備は終わっている。
 あとは私の理性が、私の欲望に負けた時……そう……あと少しで私の理性は、私の欲望に負けてしまう。
 あと少し……それは明日かもしれない
 あと少し……それは今日かもしれない
 あと少し……それは今かもしれない
 欲望に負けてはだめだという理性の声、早く欲望に負けてしまえと言う欲望の声……早く理性よ欲望に負けてしまえと考えている私……
 自分の体液で濡れた指先……その指先を口へと運び、ゆっくりと味わうように舐めながら、舌を指で弄びながら……愛しい人の名を呼ぶ……
「れぇん……しゃま……わらぁしのぉ……わらぁひぃらけの……」

 トントン!
 不意にドアがノックされる。
「アジィ! は、はい!」
 私は驚き、口へと入れていた指先と舌を噛んでしまう……それでも何とか返事をし、慌てて乱れている服装を直す。
「鏡花、蓮様がお呼びよ、何か用事がある見たいだから、早く行きなさい」
 外から聞こえてきたのは、数少ない友人である彩夏の声
「え、ええ、わかったわ、直ぐに行きます」
 慌てて私は返事を返し、身支度を出来るだけ早く済ませ、大急ぎで蓮様の元へと向う。
 何を命じられるのか?
 何を命じられても私は、それを完璧に果たすだろう。いや完璧以上に果たして、私は蓮様に褒められたい、そして褒められた私は、その時に蓮様をきっと……
 思いっきり噛んでしまった指先……少しだけ血が滲んでいる……私はその血を舌先で舐めとった。

 蓮の所へと行った鏡花が、蓮に命じられたのは、某所に出現した鬼の監視と追尾であった。
 そして鏡花は、命じられた場所へと向かう事となるが、任務を焦るあまりに、命じられた任務を失敗し、鬼の新たな犠牲者となってしまう事など、この時には誰も想像すらしていなかったのだが……






           
           





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