『 美緒 』


                                  【 夕暮れ 】


 窓から差し込む日差しは、すでに5時を過ぎ6時近くになるというのに、まだまだ明るく部屋の中を照らし出している…夏のこの時期、日が完全に暮れるまでには、まだまだ時間があり、部屋の中を明るく照らし出している。
 そんな部屋の中、学校から帰ったままの制服姿で、彼女…城山美緒は、膨れっ面をしながら枕を抱え込み、ベッドの上にゴロンと横になっていた。
 そう彼女は、いま少々腹を立ているのだ…
 腹を立てていた理由は単純で複雑な事…部活終了後に待ち合わせを約束していた、恋人の雄一の奴が、約束の場所にいず、奴がいるはずのサッカー部の部室に尋ねていっても、すでに部室には鍵がかかっており誰も居ない…元の約束の場所に戻っても、当然のごとく姿は無し…
「あんのやろ〜は……!」
 待ち合わせの約束を、忘れたか?すっぽかしたか?急用でも出来たか?連絡の一つでもくれれば、まだここまで腹を立てることも無かったが、連絡すらない、こちらから雄一の携帯に連絡を入れてやろうかと考えたが、自分の方から連絡を入れるのは、なんだか癪だ!
 結局は、腹を立てながら自宅にへと帰ってきたのである。

 雄一の家は、自分の家の隣で何かと親しくしている、自宅に戻る前に雄一の家のチャイムを押して聞私は聞く
「あの……雄一君、もう帰ってきてますか?」
 わざわざ玄関まで出てきてくれた、雄一のお母さんの返事は……
「ごめんね、家の馬鹿息子まだ帰ってきてないのよ、部活だとかでこの頃は結構帰り遅いから、ごめんね……あっそうだ、あとで家の馬鹿にカレーを持ってかせるから、一緒の食べると良いわ」
「あっ、すいません、ありがたく頂きます!」
 ペコリとお辞儀をして、雄一の家を後にする、そして私は自宅の玄関の鍵を開けて家に入る、数日前から単身赴任中の父の元に出かけている母、あと数日は、私は一人暮らしをしなければならない、台所に溜まっている洗物の山と、雑然とした部屋の様子を見て、母親のありがたさを感じる、ここ数日間である、しかし今日は久しぶりに美味しい食事が出来そうだ。
 と言うわけで、彼女…城山美緒は、二階の自分の部屋、制服姿のままでベッドに寝転がり、枕を抱えながら、腹を立て続けていたのである。

「あのばか!連絡くらいしなさいよ、本当に…ばか…」
 文句言いながらも、雄一のことを思い出す…小さな頃から今までのいろんな事を、そして、このベッドの上…この上で、小さな頃に雄一と抱き合った思いで…
 不意に、顔から火が出るように恥ずかしくなってくる、心臓がドキドキと早鐘のように、強く早く鼓動する…おちつけ…おちつけ…と、考えながら、鼓動を収めようと努力し、なんとか動機を押さえ込むが・・
「雄一…」
 自然に口に出てしまった雄一の名前、落ち着いたと思っていた、心臓の鼓動が再び早鐘のように動き出し、身体中が熱くなって来るような気がする。
 ベッドの上で、枕を抱きしめてままゴロゴロと意味も無く転がる…そして、当然のごとくベッドから落下して、お尻を床に打ちつけた。
「いててて…あたしゃ、あほか?」
 尻をさすりながら、ベッドの上に這い上がるのと、机の上に置いた携帯が呼び出し音を奏でたは、ほとんど同時であった。
 着メロにしている、三波春夫の『ルパン音頭』が、脳天気な歌を奏でる、お尻を床にぶつけた美緒が、携帯に出たのは数秒後の事であった。
 誰からの携帯だろ?差出人を確認する…雄一からだった。
「雄一?」
「はずれだ…」
 携帯に問いかける私の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた…


                                【 廃病院 】


 夕暮れと言うにはまだ早い、明るい日差しが残る中、制服姿のままで自転車を疾走させる私…かかってきた携帯の内容は…

『あんた!どいうつもりなの!』
 その声に聞き覚えがあった…その声の持ち主は、3年生の不良グループのリーダーの声、何度か揉めた記憶がある嫌な奴だ…
 雄一の携帯からであることは間違いない、なぜ雄一の携帯から、こいつが連絡をよこしたのか?
『雄一君と遊んでるんだけど…お前さんも一緒に遊ばない?』
 同時送られてきた画像には、縛られて床に転がされている…雄一の姿?
『ああ…警察とか、他の奴は誘わないでね〜雄一君は、けっこうヤバイ薬とか酒とか極めているから、このことが騒ぎになったら…サッカー部とか首になるだろうし、学校も退学かな?』
 声の端はしに、揶揄するような悪意を感じる…
『場所はどこよ!』
 素早く、指定された場所を書くべくメモをとる用意をする。
『ははは…さすが、城山さんだ…駅裏の廃病院まで急いで来てね、それと携帯は持参するようにしてくれや、急がないと…雄一君の足の骨が一本くらい折れてしまうかもな…急いでね』
『あっ!ちょっと!こらぁぁーーー!!』
 私の呼びかけも空しく、通話が切られる…メモ用紙に、〜駅裏・廃病院〜と、言われた場所をメモするが、その場所はよく知っている場所だった。
駅裏の空き地にある廃墟となってる病院、その昔に雄一を連れて探検に出かけた記憶もある。
 メモした紙は、机の上にそのまま置きっぱなして、手に持った携帯を制服のポケットに突っ込むと、大急ぎで言われた廃病院まで行こうとして、部屋のノブに手をかけるが、その手がピタリと止まる。
 改めて押入れの奥に隠していた、暗器と呼ばれる数種類の隠し武器を取り出して、素早く身体の各部に持て、大急ぎで愛用の自転車に飛び乗ると、指定された駅裏の廃病院まで猛スピードで向かう…
 空手は素手だけの格闘技ではない、相手が多数の場合や状況に合わせて、いろんな武器を効率よく使う手段も習っている、そんな武器に興味を持った私は、趣味で隠し武器の使い方を独力で研究していた。
 容赦はしないつもりだ、殺すくらいの気持ちで行かなければ、自分…いや!自分なんかはどうでもいい、雄一がどうなるかわからない…
 約10分後…私は、指定された駅裏の廃病院に到着した。
 周囲はぐるりとコンクリート塀と柵で囲まれており、門とかも一応は板で塞がれているが、崩れ落ちている個所が何ヶ所もあり、中に入り込むの簡単だ…乗ってきた自転車を乗り捨て、敷地の中に入っていく…雑草が、ぼうぼうに茂る庭を突ききり、ガラスの壊れている病院の正面玄関に立ち、内部を伺う…耳を澄まして何か物音がしないかと聞耳を立てるが、何も聞こえない…
 不意にポケットに入れていた携帯が鳴り、私は慌てて携帯を取り出す。
『お早いお着きで、約束道理に一人のようだな、上の方から見させて貰ったよ』
「言われた通りに、一人で来たわよ!雄一を早く放しなさいよ!」
『相変わらずに気が強いね、まあ…そこが魅力なんだろうな、雄一君は…奥の階段から上に上がってこい、詳しい話は上がってきてからだ…あっ、携帯は繋いだままでな』
 逆らう術は無い、奥にある階段から上にへ向かう、所々から射し込む日差しで真っ暗と言うわけではない、薄暗い階段を踏みしめながら…1階…2階…3階…と上がっていく、階段の途中、踊り場になっている付近に来たときに、携帯から新たな指示が出された。
『そこで、服を脱げ…』
「なっ…!」
『お前さんの性格だ、武器になりそうな物の、一つや二つ位は隠し持ってきてるんだろ? そんなのを持ってこられたら、さすがにやばいって事だ…全部脱げとは言わん、下着とくらいは着ていて良いぞ、脱がす楽しみが減るからな…ククク…』
「そんなの持ってきてないわよ!」
『持って来てなくても別に構わない、持ってこようが、持ってこなかろうが、そんなのは知らん…とにかく服を脱いで、上に上がってこい…早くこないと、こいつの足をソロソロ折れちまうぞ?』
「グッ…わかったわよ、だから雄一に手を出さないで、もしも出したら…殺してやるから!」
『怖いね〜そして、麗しき愛情…と言う所かな?…さっさとこい!』
 口惜しさに唇を噛み締めながら、制服を脱ぎ始める…多分この様子は、何処かから見られているのだろうと思う。それを思うと同時に激しい羞恥心が身体を染め上げていく…
『脱いだ服は、そこに置いとけ…そいて5階まで上がってこい』
 制服を脱ぎ終わった直後に携帯に指示が入る、やはりどこからかこの場所を見張っているのだろう。
 脱いだ制服をその場に置いて、階段を上がる…身に着けているのは、パンティーとブラジャー、そして靴と靴下だけだった…

 5階まで上がった私の目の前に、廊下とその両側には病室として使われていたであろう部屋が立ち並んでいるのが見える、そしてその病室の前に人が立っていた。
「ようこそ…高城美緒さん」
 携帯を手の持った、その人影が話しかけてくる…そして、手招きをして病室の中にと私を誘った。
 人影が病室の中に消え、それを追う様に私は病室の中に入る…壊れた窓から夕暮れの日差しが射し込んで室内を明るく照らし出している、部屋の中央にある壊れたベッド…その周囲には、数人の男達が下着姿の私をニヤついた笑みを浮べ見ているが、そんな事は気にならない…私の目が釘付けになったのは、床に倒れこんでいる人影…
「雄一!」
 倒れている人影に駈寄ろうとした瞬間に、その人影に向けて近くに立っていた男が、持っていた金属バットを振り下ろす!
「やめてぇぇーー!!」
 鈍い金属音を立てて、床を打ち据える金属バッド…私は、その場にへたり込んでしまった…
「雄一君は、薬であと…1時間くらいは眼を覚まさない…その1時間の間、雄一君の代わりに俺たちの退屈しのぎの相手をしてくれたら、無事に帰してやるよ…意味…わかるよな?」
 私は、頷くしかなかった…

 ジャラン…と、手錠が二つ私の前に投げ渡される。
「?」
「その手錠の輪を片方だけ手にはめるんだ、そしてもう片方の輪をベッドのパイプに繋げろ、お前が仰向けになるように格好でな」
 私は、言われたとおりに投げ与えられた手錠の片方の輪を自分の手に、残った方の輪をパイプに繋げる…ちょうど万歳でもしたような格好で、ベッドの上に縛められる。
 ジャラン…とした手錠の鎖は、引っ張っても切れるような代物ではない…
「良い格好だぜ…おい、あっちを見てみな」
 ベッドの周囲…戒められた状態の私をニヤニヤしながら見ている男達の一人が、顎をしゃくり倒れたままの雄一の方を指示する。
 それが合図ででもあったように、倒れていた雄一…いや、私が雄一だと思い込んでいた人影が立ち上がると、戒められている私のほうに近寄ってきた。
「雄一…じゃない!あんただれ!誰なのよ!!」
 近寄ってきた男は雄一ではなかった…背格好は似てると言えば似ているが、まったくの別人だった。
「これ、どう言う事なの、本当の雄一は何処に居るのよ!!」
 ズイ…とリーダー格の男が、他の男達を掻き分け、私を嘲る様な…面白い冗談を聞いたような、嫌らしい笑みを浮べながら言った。
「本当に、雄一の奴をどうにかしたと思ったのか?」
「でも携帯が…」
「携帯なんぞ、盗む機会くらいいくらでもあるさ、なんせサッカー部の連中の中には、いろいろと便宜を図ってくれる奴が多いからな…ついでに奴が今日、お前さんの約束をすっぽかしたのも、サッカー部の知り合いに頼んでの事だ…わかるか?」
「じゃあ!じゃあ、ここに私を呼び出したのは…」
会心の笑み…邪悪な喜びに満ちた笑みを浮べながら、男は言い放つ…
「日頃から気に食わなかった、お前さんを楽しむためさ…時間は在るんだ、たっぷりと楽しませてもらおうかな?皆で…」
 男の手が、ブラジャーの伸び、一気に引き裂く
「いやぁーーー!!助けて!てすけてぇーー雄一!!」
 そして…凌辱が始まった…



                                                雄一へ進む