第 五 章
               
「 淫靡な惨劇 」


                              T


 小夜は洗面所の鏡に自分を写す。
 鏡に映し出された自分の顔、それはまったく酷い顔であった。
 叩かれた頬が薄く赤くなっており、そして泥と男達の体液が顔をドロドロに汚している。髪も二つに振り分け止めていたリボンの片方が、どこかに行きクシャクシャに乱れ、泥に汚れているのが見て取れる。
「ぐぅぅ……くぅっ! ……ふぅぅ……」
 小夜は鏡に写った自分の姿を見た時に、何かが胸の内から込み上げて来るのを感じたが、それを必死に飲み込み深い溜息をつき、そして口をすすぎ始める……何度も何度も執拗に、口の中に注ぎ込まれた男の汚い欲望の塊の全てを洗い流そうとするかのように、水を含んでは吐き出し、吐き出しては再び含み続けた……
 そして、小夜は乱れた髪を残ったリボンを使ってポニーテールの様にまとめながら呟く
「なぜ、私がこんな目にあわなければ……」
 鏡に写る自分の顔……瞳から涙が滲んでくるのがわかる。眼鏡を外して顔を洗い、再び鏡を見ると、眼鏡を外したせいか涙のせいか鏡に写った自分の顔がぼやけて見えた。
 そのぼやけた自分の姿は惨めであった……いっその事、ここで大声を出して泣き叫びたい気がしする。しかし小夜はもう一度、顔を冷たい水で洗い、あらためて見直した鏡の中の自分に向って言う。
「だめ……絶対に駄目! ここで泣いたら、しっかりするのよ小夜! ここで泣いたら……こんな事で泣いてしまったら……」
 ここで泣いたら負けてしまう様な気がする。何に負けるのか? あの男達にあの理不尽な暴力的な行為にだろうか? それとも自分自分の心にでもあろうか?
 小夜は負けたくなかった。たとえ理不尽な暴力により、力では負けたとしても、心までも負けたくなかった。そして小夜は鏡の中の自分に言い聞かせる。
「私は、負けないわ……絶対に!」
 そう言ってから、ふとっ小夜は思う。もし最後まで男達に身体を汚されてしまっていたら、本当に心は負けないでいられただろうか?
 ゾクリとしたものが身体を走り、思わず自分の体を抱きしめる。小夜はその考えを頭から振り払うかの様にもう一度、冷水で顔を洗う。
「とにかく助かったのよ、終ったのよ、今は早く家に帰らなくては……」
 そして小夜は思う、この事は早く忘れてしまおうと、何も無かった事にしよう……悪い夢だと思って……そう思うと、なんとなく気が楽になったような気がした。そうして小夜は一応の身支度を終えると洗面所を出るため出口の方に足を向けようとした。
 コトリ、背後の風呂場の方でなにか物音がしたような気がする、小夜は何気なく物音がした方を振り向いて見る。
「何かしら?」
 音は風呂場の中から聞こえてきているようだった。思わず聞き耳をたてる小夜の耳に男の呻き声が聞こえて来る。
「ううっ……」
 小夜は風呂場の戸口に手を掛けて少し開いて中を除いて見る、中には二人の男が紐で縛られた上、猿轡をされ転がされていた。
「これは?」
 小夜は風呂場の戸を開けると思わず縛られている男に近づき声を掛けた。
「どうしたんですか、今紐を解きますからしっかりして下さい」
 小夜はそう言うと縛っている紐を解こうとする。
「おやめなさい、小夜さん」
 後ろの方、洗面所の入口の方から不意に声を掛けられる。声に驚きつつ小夜が振り向き、そちらの方を見ると拓哉が立っていた。心なしかポニーテールにしている小夜を見て少々驚いているような表情をしながら……
 たしか鍵を掛けていたはずなのに、なぜそこに拓哉がいるのか小夜は少々混乱し、思わず声が出る。
「鍵を掛けていたはずなのに……いえ、それよりこの人達は何なんですか、なぜ縛られているんですか早く縄を解いてあげて下さい」
 拓哉は小夜の問いに驚きの表情を元に戻して笑って答える。
「質問の一つ……確かに、内側から鍵がかかりますと言いましたが、僕は偶然に合鍵とゆう便利な物をもっていましてね。しかしその髪は……」
 この男はいったい何なのだろう……何を考えているのだろう……小夜の混乱は続く……
「質問の二つ……気がつきませんか? その男達の顔に見覚えがありませんか?」
 小夜は縛られている男の顔をもう一度良く見る、そして気がつく
「この人達は……」
 自分を拓哉と共に襲った男達であった。自分の胸を揉み、無理やりに口を汚した男達……でもなぜ風呂場で縛られているのかは理解できなかった。
 拓哉は、さも当然と言うがごとく言う。
「この二人は、小夜さんを陵辱して汚した。だから罰を受けているんですよ、小夜さん貴方を汚して良いのは僕だけなんだから」
 小夜に拓哉の言っている事はまるで理解できない、ただ何か得体の知れない、どす黒い何かが……酷く禍々しい感情が感じられた。
「何を訳の解らない事を言っているんですか、こんな酷い事をして、早く紐を解いてあげて下さい、可哀想です」
 小夜の言葉に拓哉が意外そうな、それでいてどこか嬉しそうに笑いながら言う。
「ふふふっ、ああ……やはり小夜さんは優しい人なんですね。自分をあんな酷い目に会わせた人達を心配するなんて、僕の思ったとうりの本当に優しい人だ」
 拓哉はそう言うと小夜に近づいていく、思わず身体を引く小夜の腕を掴むと強引に自分の方に引き寄せ、浴衣の帯の結び目に手を掛ける。
「あっ!」
 拓哉は手際良く帯の結び目を解くと一気に引っ張る、帯を取られた小夜がクルクルと回りながら、その場に転び尻餅をつく。
「なにをするんですか、何もしないで家に帰してくれると言うのは嘘だったんですか」
 乱れた浴衣の前を両手で重ね合わせ、胸を隠した姿で拓哉を見上げる小夜に、拓哉の手が伸び浴衣の襟にかかる。
「やめて、いや!」
 拓哉は悲鳴を上げる小夜の浴衣を一気に引き剥がす、そして浴衣と帯をひとまとめにすると洗面所の方に放り投げる、後には下着一枚だけ小夜が残される。
「まっ、こんなものですか?」
 拓哉が小夜を見て呟く、そして自分も服を脱ぎ始める、やがて上半身裸になると、どこからともなくナイフを取り出して小夜に向ける、刃の方でなく柄の方を向けて
「なっ何ですか、何の真似なんですか!これは!」
 突然に服を脱ぎ始めたうえ、取り出されたナイフを見てビクリと身体を縮込ませる小夜であったが、そのナイフの刃が自分にでは無く、ナイフの持ち主の方に向けられている事に奇妙な物を憶える。
「まず僕は小夜さんに謝らなければいけません、小夜さんを家に何もせずに帰して上げると言うのは、真っ赤な嘘なんです。」
「そんな、だって家に無事に帰してくれるって! 何もせずに家に帰してくれると……」
 驚き叫ぶ小夜の唇に、拓哉が指を当てて言葉をさえぎる、そして続きの言葉を話す。
「すいませんね、僕は生まれついての嘘つきなんですよ、そしてこれから小夜さん、貴女を犯させてもらいます……ちなみにこれは、嘘ではなくて本当の事です」
「なっ!」
 絶句する小夜に拓哉がさらに言葉を続ける。
「そんなに怖がらないで下さい小夜さん、だけど犯されるのがどうしても嫌なら、チャンスを一つだけ僕は、小夜さんに差し上げる事ができます」
「……」
 無言のまま脅えた瞳で自分を睨みつける小夜、拓哉が優しげに微笑みかけながら言葉を続ける。
「このナイフで僕を刺して、殺せば良いんですよ、そしてこの家から逃げ出す……簡単なことです」
 拓哉はそう言うとナイフの柄を、あまりに異常な言葉に呆然としている小夜に握らせ、切っ先を自分の胸に向けさせる
「これから僕は、数を10数えます。その間に僕を殺すか、それとも素直に僕に犯されるか、決めて下さい、小夜さん……まずは、1……」
 呆然としていた小夜が我に戻る、ナイフを放り出し拓哉に言う。
「冗談はやめて! なんで私が、こんな馬鹿げた事に付き合わなければいけないんですか、これ以上は付き合いきれません! 私は、勝手に帰らせてもらいます」
 下着一枚の裸のままだと言う事も忘れてか、小夜は拓哉の横をすり抜け、洗面所から出て行こうとしたが、拓哉の手がポニーテイルにしている小夜の髪を掴むと、強引に引き戻す。
「あうぁっ!」
 引き戻された小夜の手に、落ちているナイフが再び戻され握らせられる。
「駄目です、2……小夜さん早く決めないと時間が無くなりますよ」
 喋りながらも数を数えるのを止めようとせず、ゆっくりとしかし確実に数を数える拓哉
「本気なんですか、悪ふざけは、冗談はよして下さい!」
 小夜の言葉は悲鳴に似たものが混じっている。
「無論、本気ですとも、3……」
 再び握らせられたナイフ、その重さを持て余すように小夜の手が震える。
「そのナイフをどのように使うか、どうするか決めるのは、小夜さん貴方です、4……」
 ナイフを握る小夜の手に力が入る、そして震え続けている手で拓哉の方にナイフの切っ先を向ける。
「ほ、本当に貴方を刺しますよ、いいんですか!」
「刺したければどうぞ、僕としては、その方が良いかもしれない、5……」
 小夜の手にさらに力が込められる、目をギュッと堅く瞑ったまま小夜の口から荒い息が洩れる。
「何を迷っているんですか? 6……」
 荒い息を吐き続ける小夜と、その姿を見続ける拓哉……小夜の荒い息づかいだけが洗面所の中に聞える。
「早くしないと時間がなくなりますよ、7……」
 時間がなくなる……その言葉に誘われるように、小夜の閉じられていた瞳が見開かれるが、その瞳には涙が溜り、今にも泣き出しそうな表情を見せている。
「どうしてこんな簡単な事が出来ないのですか? それとも貴女は、僕に犯される事が望みなんでしょうか? 8……」
 拓哉の言葉に、激しく顔を左右に振り否定する小夜だが、その口からは言葉は出てこない、ただ全てを否定するように、顔を左右に振り続けるだけであった。
「ふふふ、あまり頭を振り続けると頭に悪いですよ小夜さん、9……」
 振り続けられていた頭の動きが止まり、拓哉の方へと何かすがる様な表情を向ける小夜……何かを言おうとするかのように唇が震え動くが、言葉は出てこない……
「タイムアップ……時間です……小夜さん……・10!」
 拓哉が数え終わると同時に、小夜の手からナイフが滑り落ち、その場に小夜はへなへなと崩れ落ちると、鳴咽を漏らし泣き始める。
「やめて下さい! なぜ、なんでこんな事をするんです、お願い家に帰して、もう……いや……」
 拓哉は、泣き濡れる小夜の頬にそっと手をあてる。そして流れ落ちる涙を優しく拭ってやると耳元に優しく囁く
「僕を殺す事が出来ませんでしたか、どうやら小夜さんは僕に犯してもらいたいようですね、僕としては……そう僕は殺された方が良かったのかも知れません、小夜さんにね……それでは小夜さんの望んだとおりに貴方を犯させてもらいます。大丈夫ですよ、優しく犯して上げますから……死ぬまで何回もね……」
 拓哉の手が髪の毛に触れる、電気で打たれた様に小夜の身体がビクリッと跳ね、拓哉の手から逃れようと猛烈に泣き叫び抵抗する。
「いやぁ! やめてぇー、誰かたすけてぇー!」
 そんな小夜の抵抗を軽々と押さえつけた拓哉が囁く
「その前に彼らに罰を与えましょう」
 拓哉はそう言うと風呂場に転がされている男達の方に、小夜を抱かかえたまま近寄る。
「小夜さん、貴方が罰を与えて上げて下さい、貴方を凌辱し汚した罰をね」
 拓哉は再び小夜にナイフを握らせる。
「なにをさせる気なんですか、離して、やめて!」
 そして握らせたナイフの切っ先を転がされている男の胸の方へと持っていく
「大丈夫です、僕がリードしてあげますから、小夜さんはナイフを握っているだけでいいんです。さあ、力を抜いて」


                             U


 次の瞬間、小夜の手に握られたナイフが男の胸に吸い込まれる様に突き刺さる、刺された男の目が見開かれて小夜を凝視する。
「いやぁーっ!」
 男の胸に突き刺さったナイフから手を離そうとする小夜を拓哉の手が上から握り締め、さらに深くナイフを突き刺す。ナイフが刺さった場所から赤い血が滴り落ちる、そしてナイフを伝い小夜の白い手にも滴る、小夜は血の感触を手に受けた次の瞬間、ナイフを握ったまま意識を失った。
 拓哉は失神している小夜を見つめてつぶやく
「まだ、これからなのに、小夜さん……」
 拓哉は小夜をそっとその場に横たえると、ナイフで胸を刺された男に向かって言う。
「もう、いいですよ」
 すると、小夜に胸を刺された男の一人、大川隆二が何事も無かったかのように猿轡をしたまま喋り出す、どうやら猿轡は形だけで何の意味もないようだ。
「なかなかの演技だったろ、アカデミー賞もんだぜこれはよ」
 もう一人の男、木島惣一も起き上がり喋り出す。
「しかし、いくら今回は拓哉の好きなように女を犯らせるのを約束したからって、わざわざこんな手の込んだ真似をするなんて、よっぽどその女が気に入ったんだな拓哉は」
 拓哉は薄く笑うと、何時もの肩をすくめる仕草をする、そして小夜の手にまだ握られているナイフの刃先を指で軽く押す。刃先は引っ込み赤い血に似た液体が零れ落ちる、どうやらマジック等に使われるトリック・ナイフのようだ。
「ええ、いつか言ってませんでしたか、僕は運命の女性を捜していると、この小夜さんが僕の運命の女性だったんですよ」
 転がされたままの隆二が拓哉に向かって言う
「ふーん、それより早く紐を解いてくれ、いくら真似事とはいえ窮屈でたまらんからな」
「わかりました、待ってて下さい」
 拓哉は紐を切るためであろうか別のナイフを持ち隆二の後ろに立つ、そしてナイフを持つ手を動かす、紐にではなく隆二の首筋へと、急所の部分にへと!
「貴方は、小夜さんを汚し乱暴をしましたね……死になさい……」
 拓哉が隆二の耳元に囁く、時間が止まったように凍りつく、首筋にナイフを突き立てられた隆二は、何が起きたのかも理解できない表情でゆっくりと崩れ落ち、声ひとつ立てる事無く絶命する、拓哉は首筋からナイフを引き抜くと惣一の方に近寄る。
 惣一は目の前で行われた事が信じられなかった。と言うよりも理解できなかった。なぜ拓哉が相棒の隆二を殺すのか、ひょっとして女を騙す演技をまだしているのかと思った。
「拓哉、もう演技は止めにしようぜ、隆二も死んだ真似なんか止めろよ」
 引きつった笑いを浮かべ惣一が拓哉に話しかける、拓哉はそんな惣一の喉笛にナイフをあてがいながら言う。
「ふふふっ……これも演技だと思いますか?」
 惣一は喉笛のナイフの冷やりとした感触を感じながら、引きつった笑いを相変わらず浮かべたまま喋る。
「なあ! 拓哉、俺達は友達だろ、何人もの女達を一緒に輪姦してきたじゃないか、なっ、冗談はそれくらいにして早く紐を解いてくれよ、今回の女は約束通り拓哉の好きなようにしていいからよ」
「友達ですか、僕に友達なんかいませんよ、それにさっき僕が言った事を聞いていたでしょう? 貴方も小夜さんを汚した。小夜さん汚して良いのは僕だけなんです。だから小夜さんを汚した人は罰を受けなければいけないんですよ、死と言う罰をね……」
「やめげっばぁ!」
 惣一は最後まで言葉を言う事は出来なかった、拓哉の持つナイフが惣一の喉笛を深くえぐる、気管が切断されヒューという音と共に肺の空気が大量の血と共に溢れ出し、倒れている小夜の身体の上に驟雨のように降りかかった。


                              
V


「うっ、うーん……」
 熱い血のシャワーが気付けになったのか、小夜は小さな呻き声を上げて目を覚ます、しかし次の瞬間、身体に降りかかる血に気が付き凄まじい叫び声を上げる。
「きゃああぁぁーぁー!」
 全身血塗れになり、半狂乱で泣き叫ぶ小夜を拓哉が力強く、しかし優しくだきしめる。
「小夜さん、安心して下さい二人共ちゃんと死んでます、貴方が殺したんですよ、そのナイフでね」
 小夜はそう言われて、まだナイフを握り締めている自分に気が付きナイフを離そうとするが思うように指が動かず、なかなか離す事が出来ない
「うそ、うそ、貴方が、貴方が無理矢理にナイフを握らせてやらせたから……私は人を殺してなんか、刺してなんかいないわ!」
 小夜が叫ぶように言う、拓哉はそれに答えずに小夜を抱きしめたまま、自分の唇を小夜の唇に重ねる。そして自分の舌を小夜の口中に滑るように潜り込ませた。二人の舌が複雑に絡み合い互いの口中で蠢く、拓哉と小夜の口中に、しょっぱくてそれでいてどこか甘く、生臭いネットリとした血の味が広がっていく……
 拓哉が小夜の唇から自分の唇を離すと、血で染まった唾液が二人の唇の間を紅い糸を引いて伸びた。
「落ち着きましたか、小夜さん」
 小夜を抱きしめたまま拓哉が、まるで幼子に語りかけるように優しく聞く、小夜はかろうじてコクリと頷くとその場に座り込み子供のように泣きじゃくり始める。
「なぜ、なぜ貴方は私を虐めるんですか?どうしてこんな酷い事を、私が貴方に何かしましたか?もうよして……」
 拓哉は小夜を見つめ、ポツリと言う。
「小夜さんが好きだからです」
「えっ?」
 拓哉の意外な言葉に小夜は面食らう、答えを期待していた訳ではない、しかし予想外の答えに小夜は呆けたような表情を拓哉に向ける。
 呆然としている小夜をそのままに拓哉が、二人の男の死体を空の浴槽に手際良く放り込む、そしてシャワーの栓をひねるとズボンと下着を脱ぎ血塗れの自分と小夜にシャワーをかけて血を丁寧に洗い流し始める。
「小夜さん、お立ちなさい洗ってあげますから」
 拓哉は小夜を強引に立たせると、ボディシャンプーを取り、顔を左右に振りいやいやをする小夜の身体に丹念に塗り始める、首筋、胸、腹、ありとあらゆる所に拓哉の手が伸びる。
「やめて、自分で、自分で洗えますから、お願い……」
 小動物のような小夜の弱々しい哀願の言葉を無視して、拓哉の執拗な愛撫の手が小夜の身体の上をすべるかの様に蠢く、背後から手をまわし乳房を捏ねるように揉み上げる、そして勃起して丸くなった薄桃色の乳首を摘み小夜に小さな悲鳴をあげさせる。
「うっ!いたっ、いや、さわらないで!」
「小夜さんの胸は小さいけれど柔かなんですね、まるで赤ん坊のホッペタのようですよ」
 拓哉は小夜の耳元にそう囁くと耳たぶを軽く噛む、そしてそのまま首筋に舌を這わせながら、背後から小夜を強く抱きしめると、拓哉の堅く勃起した男根が小夜の背中にあたり蠢いた。拓哉は小夜の背中に男根を強く圧しつけたまま手を下半身の方に伸ばし、そして伸ばした手の先を血で真赤に染まっている小夜の下着の中に滑り込ませる、恥毛のショリショリとした手触りを確かめながら小夜の秘所に指を這わせる。
「だめ!そこは、いやぁっ!」
 小夜は背中に押し当てられている拓哉の熱い物を感じた、そして誰にも触れさせた事のない秘所に侵入してくる指に恐怖を抱き、ひときわ高く悲鳴を上げる、そしてその声に合わせるかのように拓哉が秘所の入口を指で入念に愛撫し始める。
「小夜さん、声を出したかったら出して下さい、僕も小夜さんの可愛らしい声をもっと聞いてみたいですからね」
 拓哉の愛撫が一層激しくなり小夜の肉芽に触れる。
「ふふふ……少しですが膨らんできてますね?」
「うくっ!んぁいやぁ!」
 薄い笑いを含んだ拓哉の言葉に否定の声をあげる小夜だが、その声の中には、どうしようもない喘ぎが含まれ、肉芽に触れた指先がその部分を軽く摘み上げた瞬間、更なる悲鳴とも喘ぎとも判断できない声をあげてしまう。
「あっああぁぁー!」
 その声を聞きながら、肉芽を嬲る掌の動きは激しくなって行き、肉を割りながらその入口を指で擦るようにしながら愛撫を繰り返し続ける……やがて小夜の嬲られ続ける秘所から、お湯やボディシャンプーとは別の温かいサラサラとした液体が拓哉の指の間を流れ落ち始める。
「くぅんぁあはっ!やめっ……て、はぁんぁ!」
 小夜の声は、完全に喘ぎ声に変わっていた。
「いま、とてもいい事をしてあげますから、楽しみにしていて下さい小夜さん?」
 拓哉は器用に足で、小夜の下着をずり降ろしながら、秘所からそっと手を離す、そして手を小夜の唇へ持っていき、小夜自身が流した液体が付着している指を口の中に入れ、舌を自在に弄ぶ、やがて口から指を引き抜くと口中を刺激された小夜の口から大量の涎が零れ落ちる、拓哉はその涎を手に掬い取ると、その手を小夜の下半身……尻の割れ目へと持って行き、そっと手を滑り込ませ、小夜の秘所から流れ出た液と唾液がタップリと付着した中指を、小夜の尻の穴へと関節一つ分だけ捻じ込んだ。
「ひゅうあっ!」
 いままで感じた事のない感覚が小夜を襲う、背骨の中を電気が走るような痺れるような、それでいてゾクゾクとする快感と言ってもよい感覚が……
「まずは関節ひとつ分、次は続いてふたつ分」
 拓哉はさらに中指をズブリと小夜の尻の穴に突き入れる、そして入れた指をゆっくりと小夜の中で動かす。
「あぁ……あっ!くぅはぁっ!」
 小夜は声にならない声を上げる、しかしそれは苦痛の為ではなく、未知の感覚に対しての反応の声であった。
「小夜さん、気分はどうですか?これは『指人形』とゆう性技だそうです、いまもっと感じさせて上げますからね、せいぜい良い声を出して下さい……僕が満足するようにね」
 拓哉はそう言うと、中指を完全に小夜の尻の穴の中へと埋没させる、そして入れた指で小夜の中に字をなぞる。
「やめ……て、変に、わたしが、なくなっ……ちゃう。んぁっはぁん!」
 異常なほどの快感が小夜を襲う、背中を駆け上がってくる快楽の大波が小夜の頭の中を真っ白に染めて行く。
「小夜さん、いま僕が小夜さんの中になんと文字を書いたか解りますか?」
 無論、解る訳はない快楽の波に揉まれ漂う小夜には、拓哉の言葉すら届いてない様であった。
「あはぁっ、はっあうぁぁーっ!」
 小夜の白い肌が薄く桃色に染まっていく……それが、だんだんと濃くなって行きながら、同時に股間からサラサラとした液体が大量に流れ落ちていく
「ひぃぃ! ひいぃうぁぃあっぁあぃーーぅー!」
 人の声と言うよりは獣、それも盛りのついた獣の様な声を一際高く発した後、絶頂に達した小夜がグッタリと拓哉に寄り掛るように意識を失う、拓哉はそんな小夜を抱き上げ顔を覗き込む、不思議な事に小夜の顔を覗き込む拓哉の顔に複雑な表情が浮かぶあがっている……苦しそうな、それでいて哀しいような、そんな複雑な表情を……そして、その表情のまま浴槽に放り込んだ、木島惣一と大川隆二の死体に視線を向けて呟くように言う。
「僕もすぐそちらに行きますから、あせらず地獄で待っていて下さい二人とも……」
 拓哉はそう言うと、小夜を両手で抱かかえ風呂場を出て行った。





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