第 四 章
「 会話 」
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小夜は薄い闇の中で目を覚ます。
「くぅうっ!」
ズンとする鈍い痛みがお腹にある。
皮肉な事に、その痛みが朦朧としていた意識を少しだけハッキリとさせてくれた。
「ここは……」
ここは、どこ? 私は、なぜここにいるの?
まだ完全に覚めやらない意識の中、ふらふらする頭で周りを見まわす視線の先に映る風景……窓から入る月の光が浮き上がらせる場所、ぼんやりと見えるのは、かなり広い部屋であるという事、そしてその中央に置いてあるベッドの上に自分がいる……
「どこの……部屋の中……?」
新た寝て室内の様子を確かめるように見回す。高価そうな絨毯が敷き詰められている床と、その床に置かれている家具類も時代を感じさせる高価そうな物であった。自分が横たわっているベッドも柔かくフワフワしていおり、家具や調度品を見る限り女性のそれも若い女の子の部屋のように思える。壁や机の上にクマとウサギのヌイグルミが飾られているのが、さらに女の子の部屋らしさを強調している。
「なぜ、私は……ここはどこ?」
頭が少しずつはっきりとしてくる……そして不意に思い出す。 悪夢のような出来事を
「やあぁぁ……いやああぁぁぁっ―――――!」
思い出した瞬間、小夜は悲痛とも言える声を上げ、そして両の腕で自分の身体を抱きしめベッドの上にうずくまる。
蘇ってくる……恐怖! 嫌悪! 恥辱! それらの感情が一挙に湧きあがってき、同時に肉体に加えられた数々の記憶も蘇ってくる……唇を覆う汚れた触覚、口の中に突き込まれた男根の禍々しい感触、胸を握り潰すような痛み、容赦のない男達の仕打ちが、そして男が口中に放った欲望の塊の生臭い味と臭いすら、リアルに蘇り身体中に広がって行く……
「やっと目が覚めましたか?お嬢……いや、山口小夜さん」
「えっ? きゃぁ!」
天井の照明が点き室内を明るく照らしだす。不意に名前を呼ばれた小夜が、声のした方を見るが、急な明かりのせいか誰がそこに居いるのか解らない
「だれ……誰なんですか、それにここは……」
目を細め、ようやくに慣れ始めた照明の中で、小夜が確認したのは男が一人、優しげな微笑みを浮かべてドアを開け立っている姿……
しかし小夜はその男の姿を見た瞬間に不吉な物を覚える。微笑みを浮かべた顔は不快ではなかったが、どこか人間離れした……そう、薄いマスクでも着けている様な印象を受けた。そして小夜は気がつく、この男が神社の裏で自分を襲った男達の一人であることを、他の男達から拓哉と呼ばれていた男である事を……
「あっ、貴方は、ここは何所なんです!なんで、どうして私の名前を知っているんですか!」
小夜の問いかけに拓哉は答えず、手に持っていた物を小夜の方に放り投げる、それは小夜が持っていたポーチだった。小夜は慌てて袋の中身を確かめる、財布、ハンカチ、ティッシュなどの小物と一緒に入れていた生徒手帳が無くなっているのに気がつく、拓哉の方へと視線をも出した小夜の眼に、手に持った生徒手帳を開き、中を見ている拓哉の姿が映し出された。
「光が丘学園・校則・第〇条・本校生徒は外出時、本手帳を必ず携帯すべし……ですか、小夜さんはなかなか真面目な学生なんですね、ちゃんと校則を守っている」
何処か人をからかう様な口調で喋る拓哉に小夜は、気丈に……だが、少し脅えた様な口調で叫ぶように言う。
「ひ、人のものを勝手に見ないで下さい、手帳を返して下さい!」
そんな小夜の言葉を聞き流して、拓哉はさらにからかう様な口調で続けて喋る。
「光が丘学園、二年B組、山口小夜ですか、偶然ですね、少し前に僕達のお相手をしてもらったお嬢さん……たしか、桜井麗子さんと言うお名前でしたか? たしか彼女も、光が丘学園の生徒さんでした。ひょっとしてお知り合いですか?」
桜井麗子さん……それは小夜の記憶にある人の名だった。個人的に知っているわけではない、しかし彼女の名は、光が丘学園に通う生徒達、特に男子生徒達の間では知らない者がいないと言われるほどに美人と言うか綺麗な人であった。
「……」
小夜は男の質問に応えずに横を向く、男は更に小夜の手帳の内容を声を出して読み上げる。
「演劇部所属、身長は156cm、胸囲は、僕個人の好みではもう少し大きい方が嬉しいんですが、79cm、ふーんなかなかかわいい胸をしてるんですね小夜さんは、ふふふっ……そして現住所は……」
拓哉は生徒手帳に書かれている小夜のデーターを次々に読み上げる。
「やめて下さい、いったいどうゆう気なんですか!」
たまらずに小夜が叫び拓哉を睨む、そんな小夜に対して拓哉は、軽く肩をすくめたうえで手帳を閉じ、小夜の方へと近寄って行く……そして、自分を睨み付けている小夜の手を取ると、その手に手帳を返しながらニコリと笑いながら言う。
「この男性は誰? 小夜さんの恋人ですか?」
そう言うとポケットから取り出した、一枚の写真をヒラヒラさせる。
「その写真は!」
あわてて、その写真を取り返そうとし手を伸ばす小夜の両手を片手で押え込み、拓哉はそのまま小夜をベッドの上に押し倒しながら、写真を小夜の目の前に突きつける。
「誰なんです、この男の人は?」
再び拓哉が聞いてくる、心なしその声には怒気が含まれている様であった。
しかし小夜はその問いに答えず、横を向き答えを拒絶する。その写真の男性は小夜が淡い恋心を抱いている花山大吉の写真であり、馴れないカメラを必死に操作して、ようやく隠し取りに成功した写真であった。小夜はその写真をせめてものお守り代わりにと、生徒手帳に入れて何時も持ち歩いていたのだ。
「仕方ないですね」
拓哉は困ったような口調でそう言うと、写真を小夜の顔の横に置き、空いた手をするりと浴衣の襟元から差し込み乳房をわしづかみにする
「あっ!」
突然の事に驚きと恥じらいの声を上げる小夜を見据えて、拓哉が同じ質問を今度は明らかに怒気のこもった声で繰り返す。
「この男は誰なんです!」
小夜の乳房をわしづかみにしている手に容赦の無い力が込められる。
「いっ痛い、やめて……お願い!」
小夜の哀願を無視して、さらに乳房を掴む手に力が強く込められる。
「質問に素直に答えなさい、胸を握り潰されたくないならね、小夜さん…」
拓哉はそう言うと胸から手を離し写真をもう一度、小夜に見せて質問をする。
「この男性は誰なんですか?小夜さん?」
その問いに小夜は力の無い声で答える。
「恋人なんかじゃありません、でも……」
小夜は思う恋人ならどんなに良かったろう? お祭りの夜店で見た光景が思い出される。楽しげに微笑み合う彼と関根さんの姿……彼の横に関根さんでなく、私がいられたらと……
「でも? 誰なんですか小夜さん」
拓哉が答えの続きを促がす、小夜は小さなしかしはっきりとした声で言う。
「でも……私の大切な人です……」
拓哉は小夜の答えを興味深げに聞くと、押さえつけていた小夜の手を離し自由にする、そして小夜の方胸元へと差し込んでいた手を引き抜くと、改めて小夜の方を見ながら話し始める。
「さて、それではそろそろ本題に入りますか」
拓哉はそう言うと小夜の横に腰を下ろし、なれなれしく胸元から引き抜いた手を肩へとまわし、小夜の体を強引に引き寄せた。
「あっ!」
「本当なら、僕と僕の友人達はここで貴方を体を……その可愛らしい肉体を楽しむつもりだったんですよ、徹底的に……こんな道具とかもつかってね」
そう言いながら拓哉が、引き寄せた小夜の手元へと何かを手渡す。
「ひぃ、これって……いやぁ!」
小夜の手へと手渡された物の正体、それはグネグネと蠢く電動バイブであった。反射的に受け取ってしまった電動バイブ、その正体に気が着いた小夜が、床の上へと投げ捨てる。
「おやおや、そんなに乱暴に扱わないでください、これはけっこう高価な代物なんですよ、それにさっき言った桜井麗子さんの処女膜を破った絶品でもありますしね」
床へと放り出された電動バイブ、グネグネと蠢き続けるそれを拾い上げながら拓哉は、相変わらずのクスクスとした薄笑いを浮かべながら、電動バイブのスイッチを切り、ベッドの上に放り出す。
「そんな……そんな物を見せないでください、不潔です!」
羞恥と怒り、それが重なり合わさった表情で小夜は、薄笑いを浮かべ続ける卓也を睨むように見る。
「さて、道具を使うのは嫌だと言う事でしたら、僕が丁寧にしてあげた方が好み……なのでしょうか?」
拓哉の手が小夜の体を再び引き寄せ、何とか逃れようと足掻く小夜の胸に滑り込んで行く、そして指先で乳首を探りあて摘み上げる。
「いや、やめて下さい、はなして!」
思わず悲鳴を上げ、拓哉の腕の中から逃れようと足掻く小夜、その心地よい抵抗の動きと、胸へと差し込む揉み続ける乳房と、乳首を指先で嬲り続ける感触、それを暫く楽しんだ後、拓哉は摘んでいた乳首を離し、再び話し出す。
「しかし残念な事に、小夜さんにとっては幸運な事ですが、ちょっと僕達に急用が出来てしまいましてね。友人達は一時間ほど前に、僕ももう少ししたら出かけなければ行けなくなってしまったのですよ、そしてしばらく帰ってこれない……僕らが帰ってくるまで、小夜さんを監禁し続けておくのも良いかと思ったのですが、流石にそれは拙いだろうと言う事になりましてね。だから小夜さんにはこの際、実に残念ですが家に帰ってもらうことになりました。ただ僕や友人達のことを家族や警察の人に喋られると困りますんで、まあっ……そのための保険として小夜さんや家族の事なんかを手帳を見て調べさせてもらったんですよ」
小夜は男が何を意味して言っているのか良く解らなかった。
「いったい何を言っているんです、保険とはどうゆう意味なんですか?」
小夜の問いかけに男は、恐ろしく酷薄な笑いを浮かべながら、しかし口調だけは優しげに答える。
「もし、僕達の事を家族や友達に話したら、小夜さんをここにまたご招待しなければならなくなり、今度こそ小夜さんの肉体を楽しむ事にします。もっとも僕としては、その方が嬉いんですがね。それに今日の話を聞いた人達が、大怪我をしたり死んじゃうかもしれない……勿論、小夜さんの大切な写真の彼あたりが真っ先にね、言っている意味は解りますか?」
小夜は息を飲み、無言でコクリと頷く、男の行っている事、それは明らかな脅迫であった、すべてを忘れろと言う意味の……小夜は震える声で言う。
「わ、解りました、この事は誰にも、誰にも言いません、だから早く家に帰して下さい、お願いします」
男は満足そうに頷くと、浴衣の中へと差し込んでいた手を引き抜き、そのまま小夜の手を取ると立たせる。
「ありがとう小夜さん……それでは行きましょうか」
立ち上がらせた小夜の手を取り、小夜をベッドのある部屋から拓哉は連れ出した。
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男に促され廊下を歩く小夜は、いままで自分がいた部屋が、広い家の中にある沢山の部屋の一つでしかない事に気が付く、そしてここが屋敷と言って良いほどの大きい家であることに、拓哉はそんな小夜を洗面所らしき所に連れて行き言う。
「ここで身だしなみを整えて下さい、本当なら隣の風呂場でシャワーでも浴びてちゃんとすれば良いのかもしれませんが時間も無いし、小夜さんもここでシャワーを浴びる気にはなれないでしょう」
たしかに男達に触れられた肌をシャワーでも浴び綺麗にしたいと言う気はあった。
しかしさすがに自分を襲った男の家で、シャワーを浴びる気にもなれなかった。
「解りました、解りましたから、あの、外に出て行ってもらえませんか?」
「了解、それでは外にいますから終ったら教えて下さい、家の近くまで送りますから、あっ、それから洗面所のドアは内側から鍵がかかる様になっていますから、気になるようでしたら掛けるといいですよ」
男はそう言うと洗面所の外に出て行く、小夜は男が出て行くのとほとんど同時にドアの鍵を掛ける。そして洗面所の床にペタンと腰をつけると安堵の溜息を漏らす。この時、もし小夜が聞き耳を立て外の様子を伺っていたら、男のこんな言葉を聞いたかもしれない
「猿芝居の幕はあがった、幕引きをするのは僕か、それとも小夜さんか……」
たとえ聞いたとしても、意味の判らない不可解な言葉を……
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