牙鬼【オーガ】
プロローグ
アーグレイと呼ばれる、その森は人を拒んでいた。
別名暗き森と呼ばれる、アーグレイ森林地帯の傍に開拓団による村が創られたのは、百年以上も前の事であった。
それ以来、人は森へと進出を開始し始めて、少しずつではあるが森の中へと踏み入っていたが、それは森にとって所詮は薄皮一枚程度しかありえず、その森の大半は未だに人を拒み続け、そこに住まう魔獣、妖獣の類も同様に人の脅威であり続けていた。
『 オーガ 』
夜にならなければ、この場所は危険ではない筈だ、そのような油断があったのかもしれない、如何に村に近く今まで危険がなかったとしても、ここは人を拒み続けるアーグレイの森である、危険は何時も隣り合わせであり、油断は命取りになるのだ。
村では数少ない現金収入(摘み込んだ薬草をまとめて、街からくる薬問屋に売るのである)となる薬草を採集していたエルフの少女が、それに感づいたのは、すでに夕闇も迫ろうとしている時間帯であった。
それは、森の奥から現れた一体のオーガであった。
『オーガ』それはアーグレイの森に住まう最悪とも言える生物の一つ、人の倍はあろうかと言う巨体が生み出す怖ろしい程の力と、その残忍にして狡猾な性質は、人にとって脅威であった。
それが、突然に少女の前に現れたのである、少女の反応は素早かった。
手の持っていた薬草を積んだ籠を、オーガの方に投げつけると後を見る事無く、脱兎の如く村へと続く道へと走り出した。
逃げなければ!と言う思いがある、少女はオーガと言うものを良く知っていた…村人の話を聞いたことあるし、不運にもオーガに遭遇した人も知っている…
オーガは残忍で狡猾である、そして人を喰うのだ、それも男ならば、すぐに捕まえて生きたまま喰らい殺すだけだが、捕まえた相手が女性ならば話は更に悲惨になる、オーガは女を犯すのだ、泣き叫び抵抗するのを楽しみながら嬲り犯して楽しむ、巨体を誇るオーガである、女を犯しているうちに犯し殺す事も間々ある、そして腹が減っていれば男同様に生きたまま喰い殺す事もある、しかしオーガの腹が満ちており、犯し殺されなかった場合はそれ以上に悲惨な事になる、生殖力の強いオーガは人の女に、子を宿させることが可能なのだ!
オーガの腹が満ちていた場合、オーガに犯し殺されなかった場合、オーガは嬲り犯した女をその場に放り出して森に消える、飽きた玩具を放り出して家に帰る子供のように、そしてオーガに犯されて、生き残った女は確実にオーガの子を宿す事となるのだ。
少女自身もオーガに犯されて、生き残った女の人を見たことがある、その女性は禍人と呼ばれ宿ったオーガの子を産み落とすまで、村人達の監視下に置かれ、子を産んだ後も死ぬまで禍人として差別され続けるのだ穢れた存在として、そして産み落とされたオーガの子は森に帰される、村から少し離れた場所に設けられている祭壇のような場所で、そのオーガの子は命を絶たれた上で放置される、後の始末は森に住む者達がつけてくれる。
だから少女は必死で逃げる、逃げ切れない事が明白だというのに…
オーガの反応は素早かった、投げつけられた籠を片手で払うと、逃げ出した少女を追いかけ、数歩も行かないうちに少女を捕まえる事に成功した。
「きゃぁぁぁーーー!」
オーガに捕まった少女が、悲鳴を上げながら、オーガの手を払いのけようと暴れるが、それは何の抵抗にもならない、オーガは捕まえた少女を吟味するかのように、自分の目線にまで持ち上げ、その少女の姿を満足そうに笑みを浮かべて見る、人ではない笑みを浮かべ自分を見ているオーガの中に、少女は限りない残酷さと好色さ読み取る事ができた。
「ひっ!いやっ、やっ、いやぁぁーーーーー!!」
捕らえた自分の腕の中で足掻く少女、その足掻きすらオーガには楽しみであった。
少女が身に付けている服をオーガが引き剥がす、それはオーガにとっては果物の皮を剥く程度の感覚なのであろう、あっけないほどの服は引き剥かれ、その下から白く華奢な少女の裸体が剥きだしとなる。
服を引き剥がされ、全裸にされた事によって少女は、死の恐ろしさと恥かしさにより声を出す事も出来なくなる、オーガはその場に胡坐をかくように座り込み、その怒張したペニスに少女の股間を乗せる、その時点で少女は叫びだした、犯されるという事実を突きつけられ、死にもまさる感情が爆発したせいであった。
「やぁぁーーー!!」
身体を?まれたままの少女が足掻く、狂ったように振り動かす頭部、整った端正な顔は恐怖に引きつり、蒼く大きな瞳は限界まで見開かれ溢れ出した涙が周囲に散らばる、そして振り乱れる金色の長い髪が乱れのたうつ、足掻くようにばたつかせる長く華奢な足が宙を掻くが、何の抵抗にもならない、自分の股間…誰にも見せた事も無ければ、触れさせた事ない場所に、何かが突きつけられたのがわかる。
「いやっ!いやいあやぁぁーーー、やめて、やだぁぁーーー!!」
その少女の叫びが、オーガにとって合図となる、オーガは少女の股間のアノの部分に触れさせていたペニスを、そ少女の胎内へと一気に突き込んだ!
「ぎゃぁぁぁーーーーーー!!」
血を吐くような悲壮な悲鳴が、森の中に響き渡り周囲の空気を引き裂く、オーガは更にその悲鳴を聞きたいとでも言うように、少女の身体にペニスを差し込んだまま、少女の身体を揺り動かし、さらの胎内の奥深くへとペニスを突き動かし捻じ込んだ。
「あっ!あがぁぁっ!、ぎひぃぃーーーーぎぎぎぃぃぃーーー!」
犯された、破瓜の苦痛と言うレベルではない、文字どうりに生きながら身体を貫かれ引き裂かれていく激痛に、少女は身体を震わせてのたうつ、それは断末魔の様相を見せている、死んだとしてもおかしくはない状況であった。
オーガにとっていま犯している少女は、自分が快感を得るために使用している道具でしかなく、死のうが壊れようが関係なく、それどころか快感を更に得るためであったなら、進んで少女の身体を引き裂きそれによる快楽を貪ったであろう。
「がっ!あがぁががっ!ぎぃぃーーー!」
すでに叫び声でも悲鳴でも無く、オーガのペニスで自分の身体が引き裂かれていくのを、ねじくれた音として吐出しながら、少女は犯され続けている、自分で噛み切った唇からは血が流れ出し、見開かれ続けた瞳は切れた毛細血管のせいで赤く染まり、流れ出た涙が赤く染まり顔に行く筋もの血涙の痕を染みこませている、身体もオーガに蹂躙され小ぶりな乳房は、片方が完全に握り潰され、血と肉の塊に変わり果ててしまっている。
オーガは、ガシガシと少女を掴み上げながら揺り動かし、ペニスを突き動かしながら快感を貪り続け、やがてそれが絶頂に達した瞬間に、処女の胎内に大量の精液を注ぎ込む、絶頂の快感にオーガは掴み上げていた少女の両腕を圧し折ってしまうが、その様な事は気にもせずに射精快感を味わい続けた末に、少女の胎内に全てを注ぎ込んだ後、満足したようにペニスを引き抜いて、少女をその場に放り出す。
オーガは、満足したように欠伸を一つ出すと、放り出した少女を眺め、自分の腹を擦るかのような行動を取る、そして少し考えるかのような首をかしげた後、現れた時のように森の中へと消えていった。
どうやら、オーガの腹は満ちていたようである、後には瀕死の少女がその場に残される、そのまま放置されていれば別の森の生物が、少女を獲物として森の奥に引き込んで餌食としてであろうが、幸いにも(いや、それはかえって不幸なのかも知れに)薬草を採取にやって来た別の村人が少女を見つけたのは、そのすぐ後であった。
『 赤子 』
厄介者であった。
いっその事、オーガに襲われた時に喰われてしまえば、このような面倒にならなくて済んでいたのに、と言うのが村の人間達の考えであった。
少女に身内が居なかったという事もそれに拍車をかける、オーガに犯され生き残った少女は、ろくな手当てもされずに、半ば放置された状態で施設へと収容される、死んだとしても構わないと言う扱いであったが、少女は奇跡的に回復して行く、そして同時にお腹の中に宿ったオーガの子供も少女の胎内で日々成長していった。
少女が収容されている施設の一角、少女が収容されている部屋の前に何人かの男達が集まり、室内をニヤニヤと笑いながら見ている。
「ひっ!うっ!くぅぅんっ!」
その部屋から、呻き語が聞こえる、薄暗く不衛生な部屋の中で少女は、全裸となって壁に手をつき、口にボロ切れを噛み締めて必死に堪えていた。
なにを堪えているのか?大きく膨らんだ腹、そして開き始めた膣口…少女は、出産の苦痛に必死に耐えているのだ、自分を犯したオーガの子供をいままさに生み落とそうとしているのである、そしてその様子を見物している監視役の男達…
オーガに犯された時が、初体験であり、当然のように出産と言う自体も初めての経験であったが、子を生した母親の本能なのか、少女は的確な出産の準備をし、そして出産と言う事態に挑んでいた。
「ぎっ!ぎぃぃ!」
ボロ切れを噛み締めながら、少女は必死に陣痛に堪え続け、出産の痛みに堪える、誰も手助けをしてくれる人は居ない、全てを少女自身がしなければならないのである、生まれ出でる子が怪我をしないようにと、自分の服や与えられている毛布を幾重にも重ね合わせ、床を作り上げそこに子を産み落とそうとしている、やがて膣口が開き始め、それと同時に大量の破水が溢れ出した。
「ひっひぎぃぃーー!!」
少女は叫びをかみ殺して、必死に堪える…そして、大きく開いた膣口から頭部が現れたかと思うと、次の瞬間に子供は一気に産み落とされた。
「うぎゃぁぁーーーー!!」
と言う、元気な声が室内に響きわたる、無事に子供を産み落とす事に成功した少女が、脱力と疲労感に襲われながらも、産み落とした子供の見る、産み落とされた子供姿は普通の人の姿からは、掛け離れた姿であり忌わしきオーガの姿をしていた。
それでも少女は、自分が産み落とした子を抱き上げると、繋がったままの臍の緒を自分の歯で噛み千切り、適切な処理をした後で抱きしめて、我が子を愛しんだ。
それは少女が、一人であったから者も知れない、自分以外に誰も家族と呼べるものが無く、一人で生きてきた少女が、どのような形であろうとも初めて得る事が出来た家族、それがこの赤ん坊だったのだ。
ガチャリと、ドアが開かれ数人の男達が入ってくる、そして少女が抱きしめていた赤ん坊を、少女から引き剥がして連れて行こうとする。
「だめ!私の赤ちゃんになにをする気なの、返して!私の赤ちゃんを返してぇぇーー!」
半狂乱で叫ぶ少女は、その場に残されて赤ん坊だけが連れ去られていく、少女は知っていた自分の赤ん坊が、この先どうなるのかを、だから少女は考え続けていた事を実行に移した。
監視役として男が一人、少女が居る部屋の前に残され、他の男達は奪い取った赤ん坊を袋に入れると、森の中に設けられているオーガの子を森に帰す祭壇へと向かって行った。
「あっ…うん」
部屋の前で監視役をしていた男の耳に、突然に少女の喘ぎ声が聞こえる、声に惹かれるように室内を覗き込んだ男の目に、股間をまさぐりながら自分の胸を揉んで喘ぎ声を出している少女の姿が写し出される。
「あは…んっ!気持ちいい…ねえ、抱いて…こちらに来て抱いてちょうだい…ねえ?」
室内の少女が、自慰をしながら外に立つ男を誘う、自分の股間をまさぐりながら淫靡な喘ぎ声を漏らして、監視役の男はそれを見て生唾を飲み込む、たとえオーガに犯された忌人であっても少女は美しかった。
長い監禁生活により身体は汚れいるが、長く美しい金髪は変わらず、端整な顔立ちは多少のやつれが見られるものの充分に綺麗であり、細い手足を持つ華奢であった肉体も子供を宿し、そして産み落とした事により女としての魅力も併せ持つようになっていた。
男は考える、どうせこの女は忌人として扱われるのだ、いまここで俺がどうしようとも舞わない筈だと、そして男は鍵を開けると少女に誘われるままに室内に入っていった。
床に座り込んだ少女が、足を大きく広げ男を誘う、男はズボンを脱ぎ捨てて少女に覆い被さり、硬く勃起したペニスを一気に突きこむ
「あんっ!」
少女が喘ぐ、男はそのまま激しく動き出した…そして絶頂感に誘われるままに、射精をしようとした瞬間に、自分の首に巻きついてくる紐の感触を知る。
「なっ、んぐっ!」
それはあっけないほど簡単であった、首に巻き付けられた紐が一気に締め上げられ、まったくの無防備状態であった男が、射精するのと意識を失い昏倒するのは、ほとんど同時であった。
少女の両手には、自分の福を引き裂いて作り上げた紐が握られていた、その紐を使い一番無防備な状態であった男の首を締め上げて、昏倒させたのである、わざとらしく喘ぎ声を漏らし男を誘い込んだのは、この為であった。
少女は昏倒している男が着ている服を脱がし、その服を着込む、投捨てられていたズボンも同様に履く、サイズが合わずブカブカであるが注文は付けられない、急がなくてはならないのだ、自分の赤ん坊が森へと帰される前に…
村からさほど離れていない場所に設けられている祭壇のような場所、そこにオーガの子は連れてこられた。
袋から引き出されたオーガの子は、その持ち前の生命力ためか、産まれたばかりだと言うのに、元気に手足を動かしいる。
祭壇の上に放り出されたオーガの子に、男が手に持っている蛮刀が振り下ろされようとした瞬間、男はその場から跳ね飛ばされる、横合いから突然に現れた少女が、思いっきりぶつかって来たからであった。
少女は、祭壇に放り出されている我が子を抱え上げると、後も見ずに一目散に森の中へと消え去る、男達は後を追いかけようとしたが、それはやめた。
アーグレイの森である、生後間もない赤ん坊と無力な少女が、とてもでは無いが生き延びる事が出来る場所ではない、考えようによっては手間が省けたのかも知れない、そう考えて男達は村へと帰っていく、その考えは確かに間違いではなかった。
森の中を少女は走る、追いかけて来るであろう村人達から逃れるために、何かあてが有るわけではなかったが、赤ん坊と引き離されるは嫌だった、だから森の奥へ奥へと入り込んでいった。
どれくらい森の奥に入り込んだであろうか?走りつかれた少女が、巨木の下で一息入れる。
抱えていた赤ん坊が、乳が欲しいのかむずかる様に泣き出し、慌てて少女は自分の乳を含ませると、赤ん坊はコクコクと勢い良く乳を飲み始める。
自分の乳を飲む赤ん坊を眺めながら、少女は考える…多分この森の中では、自分たちは生きていく事が出来ないであろう、森の中に存在する妖獣や魔獣と言われる獣達により、数日と立たないうちに自分達親子は食い殺されてしまうだろう、しかしれは村にいても同じ事である、この子は殺され森へと返され、自分は忌人として蔑まれて生きて事になるのだ、どの道一緒にこの赤ん坊と生きていく事が出来ないのなら、せめて一緒に死んであげようと少女は思っていた。
「ごめんね…」
無心に乳を吸う我が子の少女は謝る、この子を守ってあげられない無力な自分を哀しくて、少女はあやまった。
パキリ…下草を踏みしめる音が聞こえた。
少女は乳を含ませている我が子を抱きしめ、音がした方を見る…森の中から、現れたのは一人の老人であった。
「ほ~、これは珍しい、お嬢さんこんな場所でどうしたのだね?」
現れた老人は、少女に優しく声をかけた。
『 ザインとライカ 』
アーグレの森は人を拒み続ける場所であった。
しかし100年以上前に開拓村が何箇所か開かれ、少しずつではあるが生活の為に、その森へ踏み込んで行く者達が増え、森の事が知られるようになると、あえてその深部に踏みこむ連中が現れ始めた、それは非常な危険を伴う行動であったが、同時にその深部に存在する貴重な薬草や有益な生物、または過去の神話時代にしか存在されないとされていた魔法具や秘宝が、深部に存在する幾つかの遺跡の中で発見される至り、それらを捜し求めるために、腕に覚えのある者達がトレジャーハンターを名乗り多くの人が、森の内部に踏み込んで行くようになる、ただしその大半は二度と返ってくる事はなかったのだが…
またそのような個人レベルではなく、国家の後ろ盾を得た大規模な調査隊も度々派遣されるようになる。
ハーフエルフの少女、ライカ・リュールもその様な調査隊の一員であった。
植物に対して深い知識を持っており、また驚異的とも記憶力を持つ事により彼女は、半ば強制的に調査隊に編入させられ、アーグレイの森に送り込まれたのである。
しかし、ライカが所属する調査隊は、アーグレイの森に踏み込んで三日目に壊滅してしまう。
目的とした遺跡へと向かう途中、突如正体不明の生物の襲撃に遭遇し、護衛として同行していた騎士団は瞬時に壊滅し、調査団の人々の怒号と悲鳴の中で逃げ回った挙句に気がついた時には、かなり深い傷を負った上に、他の調査団と離れ離れになり、アーグレイの森の奥深くに一人取り残されていたのであった。
その時点で、ライカは生還する事を諦めていた。
自らの身を満足に守る術も無く、しかも傷を負った自分が生きて帰る事が出来るほど、アーグレイの森は甘くないと言う事を、以前の調査隊が記した調査資料を充分に読んで知っていたかである。
傷口からの出血と、未知への恐怖、疲労から薄れ行く意識…自分は死ぬのだとと言う、避け難い事実を彼女は受け入れ始めていた。
その時、彼女の彼女の目の前に一人の太刀を持ったオーガが突如出現する、近寄る気配を感じる事も無ければ、下草を踏みつける様な微かな音すらさせずに、そのオーガは彼女の前に突如現れた。
オーガの姿を見た瞬間に、彼女は読んでいた以前の調査資料を思い出し、恐怖する…オーガと言う生物がどのような者であるかを知っていたからである、男なら食い殺されるだけですむが、女なら喰われる前に嬲り犯されるのだ、ライカは護身用に持っていた山刃を引き抜く、オーガに対して抵抗するためではなく、散々に嬲り犯された末に殺されるくらいなら、せめて一息に自決しようと考えたのである。
引き抜いた山刃を自分に突き立て様とした瞬間に、ライカは気がつく、目の前に現れたオーガが奇妙な動きをしている事に…
そのオーガは、自分が持っていた太刀を手から離して、その場に置いて、数歩下がったかと思うと、両手を大きく広げて敵意が無いとでも言うようなポーズを見せたのだ。
突き立て様とした山刃を止めて、ライカは改めてオーガを見る、そして、気がつくオーガの恐ろしげな顔の下にある、優しそうな鳶色の瞳の色に…
ライカが、胸に当てていた山刃を下ろす、それを見て取ったオーガは、地面に何事か文字を書き始める、そしてそれを読むようにとでも言うよ様な身振りをし、さらに後に下がる。
ライカは、書かれた文字を読み取る、書かれていた文字は三種類、それは古代神聖文字、標準文字、簡易文字…そして、文面はどれも同じ事が書かれていた。
『危害を加えるつもりはない、ここは危険な場所だし、傷の手当てもしてあげたい、どうか私を信じてついて来て下さい…』
その文章を読んだライカは頷く、それを見たオーガは手を差し出して来る、一瞬恐怖でライカは身を怯ませるが、やがて差し出された手を取る、オーガはライカをヒョイと抱きかかえると、ライカの傷に気を配りながら、静かに歩き出す。
そして、どれほど歩いただろうか?
鬱葱としていた森の中が突然に開け、家が現れる、そこがオーガの住居のようであった。
オーガはライカを家の中へと連れて行く、家の中に入ったライカの目は、驚きに見開かれる、綺麗に整頓された家の中には、どこかの学者の家を思わせる程の大量の本が整然と並べ置かれていたのだ。
ライカの傷を手当てした後、筆談(どうやらオーガは、その口や喉の構造状から人語を発生する事が不可能に近いらしい)により彼は自分の事を説明する、それによりライカは彼の生立ちと数奇な運命を知ることになった。
ライカは、以前の調査隊が書いた調査報告書にあるオーガの項目を思い出す。
オーガの子を不幸にして宿した娘は、忌人として差別と虐待の日々を生きる事になり、生まれた子は殺されてしまうのが、辺境の開拓村の常識であった。
彼の母親も、そのようなオーガ被害者であったらしい…しかし、彼の母親は、彼が生まれた直後に彼を連れて森の中に逃げこむ、そのような例が、今までにない訳ではなかったが、子連れの娘が生きて行けるほどアーグレイの森林は甘くなく、ほとんどが三日と持たずに森に棲む生物の糧になるだけと思われる。
しかし奇跡が起こる、このアーグレイの森に隠遁していた賢者が、偶然に彼の母親と彼を保護したのである、その賢者は、生まれたての子にザインという名を与える…
それから数十年…彼は母親から優しい愛情を、師たる賢者から深い知性を受け継いだ…
やがて、母と賢者が寿命を迎え死の国へと旅だった後、一人残された彼は森の奥で一人で生きてきたのだ…
長い筆談による会話が終る…
禍々しいオーガの姿、その奥底に隠された深い知性と教養と慈愛に満ちた優しさ…彼、ザインは不思議な存在だった。
傷が癒えるまでの数週間、ライカはザインの家で過ごす…ザインは優しかった。
最初の頃こそ、オーガであるという意識が、心の片隅にあったが、何時の間にか、そのような事は気にならなくなっている自分にライカは気がついた。
そして、気がつけば視線は、いつもザインを追い求めていた…
数週間後、傷が癒えたライカをザインは、近くに開拓団の村へと送り届けるために森の中を、ライカを背負い歩く、ザインの背で揺られながらライカは、何時までもこうしていたいと気持ちになっている自分に気がつく
「ザイン…」
ライカが、ザインに語りかける。
「ぐぅぅ?」
ザインは立ち止まり、低い唸るような…でも、とても優しい声で応える。
「家に帰りましょう…ザインと…貴方の家に…」
ザインは、何も言わない…しかし、そのまま歩き出し始める、開拓村がある方向へと…
「ザイン!私、戻らなくていいの、貴方と一緒に居たいの!」
ザインの背を叩き、訴えるライカであったが、ザインは知っている、自分がどの様な存在であるかと言うことを、忌まわしきオーガである自分と言う存在を!
数日前のことである、ライカは知らないだろうが、何時ものように読書を終え、自分の部屋へと戻ろうとしたザインは、突然に襲ってきた抑えがたい衝動に駆られ、ライカが眠る部屋へと足を運ぶ、そしてベッドで眠るライカを見た瞬間に、ザインは激しい欲望に取り付かれる、この娘を嬲り犯したいと言う欲望に…
その時は、何とか欲望を抑え切ることが出来たが、次に欲望が呼び起こされたら、自分はライカを襲ってしまうだろうと自覚した。
ライカと過ごした数週間の日々は、森の奥深くに潜み住むザインにとって、素晴らしくも楽しい日々であった。
このままずっとライカと過ごしたかった…しかし、すでに自覚しているのだ、自分は呪われたオーガであるという事を、だからライカを一刻も早く人里に返してあげたかった。
楽しかった思い出を、自分自身で壊してしまうまでに…
背中でライカが泣きながら背中を叩く、それがとても痛く辛い…ザインは泣き出したい気持ちを抑えながら、ライカを背負い続け開拓村の近くまでやってくる、そして背負っていたライカを降ろす。
「お願い!ザイン、私を貴方の家に連れてって!ザイン、貴方が好きなの!」
降ろされたライカが、ザインの足にしがみついて泣きながら言うが、ザインの意思は変わらない、しがみついて来るライカを乱暴に突き放し、ザインは大声で吼える!
「GRRRyyy―――!!
それは、オーガの叫び声であった、オーガが獲物を見つけ嬲る時に出す恐るべき地獄のような吼え声!
その吼え声をライカに向け、突き放すかのように吼えた後に、ザインはクルリと後を向くと森へと戻っていく
「ザイン!」
ライカの悲痛な呼び声に振り返る事無く、ザインは森の中へと消えて行った…
後には、泣き伏すライカだけが取り残された。
つづく
注意 ☆続きは、以下のどちらかよりお選びください
たまにはハッピーエンドも悪くない~
鬼畜・外道こそ我が人生也!~
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