柊三姉妹物語


                                    


                            
「 柊家の三姉妹 」


               


 その電話がかかって来たのは、夜も遅く12時になろうとしている時刻だった。
 自宅の居間、結婚25年目の記念旅行に出かけている両親に、家の留守を任された長女の柊椛(ひいらぎ・もみじ)が、明日の仕事に備えて、そろそろ二階の自室の戻って眠ろうかとした時の事であった。

 不意に鳴る電話…このような深夜に何事だろうと思い、出た椛の耳に伝えられた事は、両親の事故と、その死を告げる知らせ…それを聞いた瞬間に、足元が崩れ去っていく感触を味わい、椛は気を失いそうになった。
 しかし、気を失うわけにはいかなかった…この時から椛は、小学生と中学生の幼い二人の妹の保護者となり、柊の家を守って行かなければならなくなったのだ、とても気を失うなどと言う気楽な事が、できる身分でなくなったと自覚したからであった。

 ようやくに二十歳を過ぎ、社会人一年になったばかりの椛にとって、両親の葬儀を出したり、各種の手続きを取る…などと言う事は、未知の体験であり、今の今まで予想だにした事の無い出来事であった。
 しかも、両親には親戚縁者が少なく頼りになり者もほとんど居らず、それらを取り仕切るのは長女の椛だけであった。
両親の死と言う事よりも、まずはそれらの事項を取り仕切るのが、椛にとって最初の試練と言える。
 それでも、隣近所や町内会の人々の手助け、相談に乗ってくれた会社の上司の世話などにより、葬儀その他を無事に済ませ、各種の手月を何とか終わらせて日常生活(無論の事、もはや両親は居ず、残された三姉妹だけの日常生活ではあったが)に戻ったのは、両親が亡くなってから半年ほどたった頃であった。

 中学生だった次女の由美子は、両親の死と言うアクシデントにめげる事無く、希望した高校に無事に入学を果たし、元気に通っている、三女の亜衣は末っ子と言う事で、両親の死に一番衝撃を受けたものの、姉達に迷惑をかけまいと健気に頑張っており、無事に中学に進学をした。
 そして長女の椛は、会社務めを続けた…両親の残してくれた貯金と死によって支払われた保険金、その他の示談金などで、すぐに生活に困ると言う事は無かったが、妹達の進学等で、これから先も何かとお金が懸かるであろう事を考えれば、最善の選択であり、また仕事事態もやりがいがあった。
 こうして柊家の三姉妹は、両親の突然の死と言う不幸に負ける事無く、三人で力を合わせながら仲良く、慎ましく暮らしていた。

 …その男が、長女の椛を欲望の毒牙にかけるまでは…





                   章之壱〜「 椛 」
                   章之弐〜「 由美子 」
                    章之参〜「 椛〜其の弐 」
                   章之四〜「 由美子〜其の弐 」
                  章之五〜「 亜衣 」
                  章之六〜「 亜衣〜其の弐(前編) 」
                  章之六〜「 亜衣〜其の弐(後編) 」
                   章之七〜「 椛〜其の弐・五 」




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